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――始まりは、夏休み前まで遡る。
夏休みを数日後に控えたある日の放課後、友人と遊ぶ予定などを話していた時だった。
「ちょっと、いいかな?」
彼女が話しかけてきたのだ。当時はまだ仲が良かったわけではなく同級生の一人、ただそれだけの認識でしかないと思っていたので、突然のことにドキリとしたのを覚えている。
友人と顔を見合わせてどうしたものかと悩んだが、彼女があまりに真剣で強い意志を宿した瞳で見つめていたので、気が付いた時には私は席を立っていた。
「ごめん、行ってくるね」
私がこの場を離れることを告げると、友人は軽い調子で片手をひらひらと振った。「行ってらっしゃい」ということらしい。私が戻ってくるまで友人が待っているかは分からないが、それは私と友人の間では取るに足りないことである。
話が終わり彼女に向き直ると、ほぼ同時に彼女は私の手首を掴んで歩き出した。他の人には聞かれたくない話だろうことは予想がついたが、一体どこまで行く気なのだろう。どんどん階段を下りて行って、部活動の声を抜けていき、辿り着いたのは図書室だった。
今は誰もいないようだが、二人で話したいから場所を移動したはずなのに、ここでは誰か入って来てしまうのではないかと気になって彼女を見る。すると、彼女は図書室の扉を閉めるだけでなく、その扉の鍵も掛けた。
「もう閉室時間だし、今日は私が当番だから大丈夫」
「あぁ、そういうこと」
彼女の説明に納得して、私は頷いた。
もう閉室時間であるならば人が来ることはないし、たとえ来たとしても閉まっていることに疑問は抱かないはずだ。そして、彼女が今日の当番ということは、職員室に鍵を返すのが少し遅くなったとしても作業をしていたなどと何かしらの説明ができるというわけだ。
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