手向けの言葉を

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「それで、話はなあに?」  私は、努めて明るい声を出して、出入り口から一番近い席に腰かけた。その行動をどう捉えたのか、彼女は慌てて私の向かいの席に座った。もしかして、早く用件を済ませたいと思っていると思われたのだろうか。それはあながち間違いではないけれど、どうして私がそう思っているのか。その理由までは、彼女は分からないだろう。  放課後、二人きり、秘密のお話。これだけの要素が揃っていて、意識しないわけがない。  でも、私は知っていた。彼女の話は、私を幸せな気持ちにしてくれるものではないことを。 「……私、三組の更級くんが好きなの」 「そう、なんだ」 「それで、こんなこと言うのはどうかとは思ってるんだけど、あなたに協力をしてもらえないかと、そう思って……」  彼女が言う“三組の更級くん”とは、私と同じ中学校だった更級藤孝のことだ。今はクラスは違えど、中学では二年間クラスが一緒でそこそこ仲も良かったので、高校でもすれ違えば挨拶や雑談を交わしたりしていた。きっと、彼女はその場面を見たに違いない。だから、私に協力してほしいと頼んできたのだ。 「協力、とは言っても、私にできることはあまりないと思うよ。すごく仲が良いというわけではないから」  私の言葉を聞いた彼女の表情が、分かりやすく曇っていく。頼みの綱が切れて、では次はどうしようと考えるが、良い案はすぐには浮かばない。接点がない人にいきなり想いを伝えるのも選択肢の一つだが、彼女はそういうタイプではないように見えた。 「でも、連絡取ることぐらいはできるから、それでもいいなら。できる限りのことはするよ」  彼女の表情が分かりやすく、今度は晴れやかになる。私の言葉で一喜一憂する彼女を見て、彼女にはやっぱり笑っていてほしいと、そして彼女の笑顔のためには彼の存在が不可欠なのだと、そう感じてしまったので。  私は、彼女の恋を応援し、協力することにした。
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