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「なあ、お前覚えてるか? 高校時代、あと一勝すれば甲子園だったあの試合」
「忘れるわけなかろう。逆転のまたとないチャンスだったのに、4番の中山のやつがあの時綺麗に空振り三振で討ち取られちまって試合終了……残念だったなあ」
「俺はな……実はあの時の中山の空振りは、お前のせいじゃないかと思っとるんだ」
「はあ? 俺のせい? なんでだ」
「あの時、お前は中山の一つ前の打順だったな。
お前は実にいい当たりを飛ばしたが、敵のファインプレーで惜しくもアウトになっちまった。
で、ベンチに帰ってきたお前は、熱の籠った目で中山に言っただろう。『頼む、中山。俺のために打ってくれ』——と」
「……はー。そんなこと言ったっけか」
「俺は忘れたことはなかったぞ。あの時のお前の眼差しと言葉を、ずっとな。
そんな言い方でお前に頼まれて、あいつはどうにかして打ちたいあまり、焦って力みすぎたんだと……俺は、そう思っとる。
あいつは、お前に惚れとった。そんなの、側で見てればすぐに気づく。……お前は一向に気づかなかったみたいだがな」
「……ははっ。お前も面白いこと言うよなあ。
それに、俺のせいかどうかは知らんが、あのシーンでそう簡単に思い通り打てる奴などおらんさ」
「俺なら、絶対に打った。——お前のために」
「——……
うおっ!!」
「——どうした!?」
「入れ歯にせんべいのゴマが挟まった……!! 入れ歯使い始めたばかりだからこんなの初体験だ……しかし痛えなぁおいっっ」
「ほれ、茶だ! とりあえずうがいしてみろ」
「ゴボゴボゴボっっ……ひあ〜助かった。
……ええと。で、なんの話だったっけ?」
「……ん……?
そういや……なんだったかなあ……なんか大事な山場に来てた気がしたんだが……
まあ、忘れるくらいだから大した話じゃないんだろ。ははっ」
「確かになあ。最近物忘れが多くていかん。はははっ」
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