1.婚約破棄は突然に

3/6
5069人が本棚に入れています
本棚に追加
/167ページ
 「……もうだめなのね」  「許してくれなんて言わない、憎んで恨んで呪ってくれ」  「そんなことできるわけないじゃない!! あなたのこと、憎んだり恨んだり、ましてや呪ってですって? 私のあなたへの愛情はそれっぽっちしかないと思ってたの? 馬鹿にしないでよ!」  まなみは、テーブルをバンと叩いて勢いに任せて立ち上がった。  ハッ──と我にかえり慌てて座り直すと、うつむいて下唇を噛んで涙をこらえる。隆史はシクシクと泣きはじめた。  「泣かないでよ、泣きたいのはこっちなんだよ…」  「……まなみ、ほんとにごめん。いままでありがとう」  隆史は立ち上がって頭を下げる。伝票を手にとると会計をすませ、足早に喫茶店を出ていった。  入り口のベルが、カランカランと名残惜しそうに鳴っている。  まなみは目に涙をためて隆史を見送った。ショックに打ちひしがれて、呆然と喫茶店の窓から空を見上げると、雲が晴れて明るくなってきていた。  「雨、もうすぐ上がりそう」
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!