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「わたしは、あんたなんか認めない。お兄さまにはもっとふさわしい方がいるはずよ」
「詩乃いいかげんにしろよ」
「ふんっ!お兄さまには、由香さんの方がよかったのに……」
詩乃と呼ばれた修二の妹らしき女の子は、そういうとそっぽをむいてスタスタと廊下の向こうに一人で歩いて行ってしまった。由香さん? 誰?
まなみはポカーンと口を開けたまま、詩乃が去っていくのを見ていた。
修二もやれやれとため息をつくと、そのまま立ちつくしていた。
どれだけお互い静かにしていただろう。まなみがやっと口を開いた。
「修二、どういうこと?」
「……昼間、何かお礼しなきゃって言ってたし、俺の頼み聞いてくれるよな」
「え? ちょっと待って、それってどういう……」
「ハワイにいる間だけでいい、俺の婚約者になってくれ」
「はぁ?」
「この通り、俺を助けると思って」
修二はパチンと手を合わせて頭を下げてきた。
「ちょっと待って、ちゃんと説明してよ」
「わかった、ここじゃなんだから俺の部屋きて」
部屋に? 部屋にいくってなぜ? つまりそういうことだよね?
「大丈夫、何もしないから」
そう言って修二はニコッとする。パーティーでのキリッとした顔とのギャップが激しすぎて、ドキドキが止まらなかった。
部屋に行って、何もしないのか。それもつまらん。どうせいっときの夢であれば、最後の最後まで楽しみ尽くしてやろうじゃないか。
「何もしないなら、行かないわ」
「……わかった」
修二はまなみの手をギュッとにぎるとスタスタとエレベーターに向かって歩いて行った。
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