1.婚約破棄は突然に

4/6
5079人が本棚に入れています
本棚に追加
/167ページ
 米農家の御曹司、隆史とまなみが出会ったのはミス富山大会の打ち上げだった。  まなみは絶対いけると思った大賞はとれず、準ミス富山止まりで終わったことに激しく怒っていた。  至らなかった自分自身に対して怒りが込み上げる。もうこれ以上ないくらい努力した上で望んだミスコン。  ミス富山をとったあの里穂(りほ)に完敗したということを、いやがおうにも認めるしかなかった。  佇まいや、スピーチ、和装の着こなし、何をとっても里穂のほうが素敵だったのだから。  優勝者発表の後、里穂の隣に立っていたまなみは大げさに抱きしめて健闘をほめたたえた。  本当は自分が一番になりたかった、その想いと讃える気持ちが混ざって涙があふれた。  打ち上げの席は、富山市内のホテルの大広間で行われた。  憤って話しかけにくい雰囲気さえ出ていたかもしれないまなみに、隆史はニコニコと話しかけてきた。  「僕は、高山さんが1番素敵だと思いましたよ」  まなみはそう言われて、嬉しそうな顔をした。ふたりが付き合うまでひと月もかからなかった。  隆史は中肉中背、決して格好の良い顔ではないが、まなみが今まで付き合ってきた中で、いちばん頼りがいもあって、優しくて安心できた。  隆史はまなみのことをお姫さまのごとく大切にしていた。まなみも隆史も、結婚生活を容易に想像できるほど思い合えていたはずだった。  もう、いまとなってはそれも過去。  「いったいどうしてこうなったんだろう」  まなみは家に帰ると布団にくるまって、泣きながらぐるぐると繰り返し考えていた。
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!