ペトリコール

　ダイヤモンドヘッドの山頂からの景色は、オアフ島を一望できた。
　雨はもう止み、まぶしい太陽が私を照らしていた。
　……なるほど、確かに。
　こちら側ではすっきり晴れていたが、向こうのほうを見ると雨雲が動いていた。きっと雨が降っているのだろう。
　左右で天気の違いがはっきりと見えて面白いなと思った。
　エメラルドグリーンの海が美しい。
　海岸に並んで立っているビルや、山の斜面に沿って建っている家並みも素敵だなと思った。
　都会なのに自然の緑に満ちあふれていて、本当にここは心が落ち着く。
　この景色が、この場所が、私がなくしたあの頃の「無邪気さ」や「素直さ」「喜び」そして、「心からの笑顔」を思い出させてくれた。

　結局、祖父の水筒は見つからなかった。
　でもその代わりに、私は「自分自身」を取り戻した。
　もう大丈夫。
　私は何があっても、強く生きてゆける。
　ありがとう、ハワイ。
　日本に帰ったら、両親たちのお墓参りに行こう。
　そして今回の旅行の話をみんなに聞かせてあげよう。
　きっと最高の思い出になる。
　私は１０年ぶりに心からの笑顔で言った。

　――――「アロハ！マハロ！」ってね。