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朝、コーヒーを淹れながら欠伸をする。
懐かしい夢を見ていた気がする。
コーヒーを飲み、焼いたトーストを齧っていると、廊下からドタバタ音がする。
「なーシュン、ネクタイどっちの色が良いと思う?」
スーツを着た男がリビングに飛び込んで来た。
「リョウ。朝からうるさい・・・」
「やっぱり青かなー?」
「・・・赤」
「赤かー・・・うん。やっぱ青にするか」
じゃあ聞くな。
コーヒーを啜りながら睨む。
「シュン今日休みだよね?早くね?」
「ん。ちょっと出かけてくる」
「そーなんだ。俺晩飯はハンバーグが良い」
「いや出かけるっつってんのに何で手間のかかるリクエストすんの」
ガハハと笑いながら自室へ戻る同居人の涼真。
マッチングアプリで知り合い、気付けば一緒に住むようになっていた。馬鹿っぽいけどエリート商社マンである。
「・・・大丈夫?」
いつの間にかリョウが向かいに座り、朝食をとっている。
「何が?」
「なんかボーッとしてるから」
「・・・寝不足なだけ」
「注意力散漫だなー。出先で事故るなよ」
「大丈夫だよ。てかお前、この間また電気点けっぱなしだったぞ。そっちこそ注意力散漫だろ」
それに対して「あれ?そうだっけー?」と笑うリョウに俺は溜め息をつきながら苦笑いする。
「県外の大学に行くんだ」
俺が中学3年の冬休み。親族で年始に集まった時に圭吾君に言われた。
「・・・家出るの?」
「うん。一人暮らしする」
「・・・そっか」
2人並んで、縁側で冷たく澄んだ空を眺めていた。
「・・・遊びに行っていい?」
「うーん・・・しばらくは忙しいかも」
「・・・そっか。まぁ、そうだよね・・・」
「シュンも受験がんばれよ」
そう言って笑う圭吾君に俺も笑い返そうとする。でも頬が強張って、上手く動かなかった。寒いせいだと思い込む事にした。
それ以来、圭吾君とは年末年始以外で会う事は無かった。
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