in to the bright blue.(または目が明く鮮烈)

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 「ただいまー・・・って」  リョウがリビングに入ると、テーブルにはハンバーグとツナサラダと、空のビール缶が数本転がっている。  そして俺はソファーに寝転がっていた。  「・・・シュン?俊介くーん」  「・・・おかえり」  のろのろと起き上がると、リョウが近くまで来て屈む。赤のネクタイをしていた。  「珍しいな。シュンがやけ酒?」  「・・・リョウ」  「ん?」  「・・・お前、結婚とかしたいって、思う?」  「へ?何急に?」  俯きながら頭を掻きむしる。  「・・・俺相手じゃ、お前は結婚出来ないぞ」  部屋が静かになる。  俺は自分で言った事に、心臓を抉られるような気持ちになった。  「・・・結婚って、そんなに大事?」  リョウの能天気な声が響く。  「結婚しててもしてなくても、一緒にいる事に変わりないんじゃない?」  「・・・法的な権利とかが生まれる」  「そうだけど、望んで籍入れない人達もいるし。形にこだわる必要無いんじゃない?俺はそう思う」  優しく諭すわけではなく、厳しく叱るわけでもなく、「当たり前の事」のようにリョウは言う。  俺は自分の中の沸き立つ液体のようなものが、冷めていくのを感じた。  「・・・そうなのかな」  「そうだよ。多分」  「多分かよ」  「まぁ、のんびり行こーぜって事だよ。早くご飯食べよ」  そう言ってリョウは手を差し出し、俺はその手をしっかり掴んだ。  開店前、厨房で仕込み作業をしながらフロアを見る。西野さんがテーブルを拭いている。  西野さんと目が合うと、カウンターまでやってきた。  「店長どうかしたんですか?」  「えっ!いや・・・なんというか、もともと不純な動機で出来た店なんだったなーって・・・申し訳無く思えてきて・・・」  モゴモゴ言ってる俺を、西野さんはキョトンとしながら見ている。  「?なんかよく分かりませんが・・・私はこのお店で働けて楽しいですよ!店長は優しいですし、賄いは美味しいし」  そう言って笑う西野さんに、俺もつられて笑った。  「シュンさぁ、次いつ実家帰るの?」  「え?なんで?」    皿を洗う俺に、ソファーに座ってテレビを見ているリョウが聞いてきた。  「いや・・・次帰る時、俺も一緒に行こうかなと」  「・・・なんで」  「一応・・・けじめ?みたいな」  テレビを見ながら答えるリョウ。  俺はコップを落としそうになりながら、平静を保つ。  「・・・考えとくわ」  流し台に並ぶ、同じ皿と色違いの箸。  いつもの光景が、鮮やかに見えた。
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