in to the bright blue.(または目が明く鮮烈)

1/5
前へ
/5ページ
次へ
 携帯が鳴る。  メッセージを開くと、懐かしい人からだった。  『久しぶり。元気にしてる?』  メッセージを読み進めて行くにつれ、鼓動が早くなる。  忘れようとして、忘れていたものが、色を付けて甦ってくる。  「ありがとうございましたー」  楽しそうに話しながら店を後にするカップルの背中を見送る。  「西野さん、それ終わったら休憩ね」  「はいっ!」  レジを手際よく片付け、テーブルの食器を重ねる西野さんに、厨房でトマトを切りながら声をかける。  「休憩行ってきまーす」  「いってらっしゃーい」  「美味しそーっ!」  西野さんは賄いのミートボールをたくさん入れたトマトパスタを抱えながら、休憩室へ入って行った。俺はクスッと笑い、次は玉ねぎを切り始める。  ランチタイムという戦場を、今日も乗り切った。  そう考えていると、奥のテーブルに残っていた女性2人組の声が聞こえてきた。  「もーホントにムカつく!」  「あーねぇ。嫌だよねー、そういう男」  向かい合って食事をしながら愚痴っている。やっぱり異性の愚痴は男女関係無く盛り上がるのかな。  「もう3年も付き合ってるのに、全然結婚の話しとかしてくんない!」  一瞬、包丁が止まる。  「こっちはもう来月で28だよ?30までに結婚して子ども生みたいのに、アイツ全然そういうの考えてくれてない!」  「うーん、やっぱり男は結婚とか世間体とか、女より考えてなさそうだもんねー」  そんな事ない。  俺は心の中で呟く。  「まぁでもさ、すぐ結婚しなくても恋人同士のままも気楽で悪くないと思うけどねー」    「えー?でもやっぱり、好きな人と結婚してこそ『幸せ』って事じゃない?」  鼻がツンとする。  それは玉ねぎのせいなのか、何なのか。  
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加