何度でも

1/2
前へ
/7ページ
次へ

何度でも

「ねぇ、覚えてる?」   満月の夜のことだ。   ソファーでくつろぐ俺の隣に、麗子が腰かけながら聞いてきた。ソファーがゆっくりときしみ、麗子のやわらかな重みを受けとめた。彼女はじっと俺を見つめている。 「ねぇ、どうなの? 覚えてるの?」    彼女は同じ質問をくり返す。その答えはいつだって同じだ。 「覚えているよ。忘れるわけないだろ」 「良かった。覚えていてくれたのね」  答えは同じでも、麗子は聞かずにはいられないのだ。   「忘れないでいてくれたら、それでいいの」    麗子はマスクをつけたまま、嬉しそうに微笑んでいる。口元がマスクで見えなくても、目の動きやはずんだような声や仕草で、彼女の喜びが伝わってくる。  腰まである美しい黒髪に、透き通るような白い肌が自慢の麗子。鼻まで覆う白いマスクが、妙に似合っているから不思議だ。  麗子の髪を撫でると、麗子は体をそっと寄せてきた。愛しい彼女と共に暮らし始めて、そろそろ一年以上になるだろうか。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加