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「何を考えてるの?」
麗子が上目遣いで聞いてくる。俺の心を見透かすような漆黒の瞳が美しくて、目を離せなくなってしまう。
「なんだと思う?」
「わたしのこと、考えてるでしょ?」
「あたり。いつだって君のこと考えてる」
「うれしい……」
長い髪を揺らし、黒猫みたいに体をすり寄せてくる麗子が、たまらなく可愛い。思わず彼女にキスをしようと、顔を近づけた時だった。
『ガサリ』
白いマスクが潰れる音がした。俺と彼女の愛情を、一枚のマスクが隔ててしまったのだ。
くっそ、いいところだったのに。
「ねぇ、麗子。そろそろマスクをはずさない? たしかに今の世の中、マスク生活があたりまえになってるけどさ。俺の前ならつけなくてもいいだろ?」
キスを遮られてしまった俺は軽くいらつき、彼女のマスクを取ろうと手を伸ばした。
「いやっ!」
麗子は俺の手を振り払い、するりと体を離してしまった。
「マスクはわたしの必須アイテムなのよ。はずしたくないわ。他の人は忘れても、あなたは覚えていてくれるんでしょ?」
どうやら彼女を怒らせてしまったらしい。麗子にふれたくて、言ってはいけないことを口にしてしまったのだ。
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