わたしは……

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わたしは……

「ごめん、そんなつもりはなかったんだ。ただ、その……麗子にキスがしたくて。マスクの上からだと、君を感じられないから。麗子の顔を見たいんだ、だって君は」  そこで言葉をいったん止めると、精一杯の笑顔を浮かべて想いを伝える。 「麗子は、だれよりキレイだから」  麗子の白い肌がほんのり赤くなっていく。マスクをしていても、わかってしまうものだ。 「やぁね、あなたったら」  言葉では嫌がってるけど、頬に手をあて、体をくねくねさせている様子から察するに、まんざらでもないようだ。良かった、機嫌を直してくれたらしい。 「そうね、あなたの前だけなら、マスクをはずしてもいいわね。でも忘れないで。覚えていてね」 「もちろんだ。忘れないよ。しっかりと覚えておく。だから見せてくれ、君の美しい顔を」  麗子は軽く(うなず)くと、耳にかかったマスクのゴムをゆっくりと外した。  長い黒髪がさらりと揺れ、彼女の美しい顔が現れる。透き通るような白い肌に漆黒(しっこく)の瞳、そして真っ赤な唇。  麗子が赤い唇をひらき、笑顔を浮かべようとした瞬間だった。  彼女の可憐(かれん)な口元が、ゆっくりとひび割れるように裂けていく。白い(ほほ)が無惨に切り裂かれ、ありえないほど大きく開いた口になっていった。 「わたし、キレイ?」  麗子は切り裂けた大きな口を、くぱぁっと開き、にたりと笑って見せた。  
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