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誰よりキレイな君
「あの頃は自粛生活とやらで、学校や会社から人間がいなくなった。人々が街から消えてしまうと、わたしを見て、怖がってくれる機会がなくなってしまったわ……」
『白いマスク姿も、今じゃめずらしくないしな』
オオカミの姿で、俺はぽつりと呟いた。
「そう! そうなのよ。わざと民家の辺りを歩いても、自粛を促す警察官だとかに見つかってしまうし。本当に辛かったわ」
出会ったばかりの麗子は俺の姿を見つけると、はずむような足どりで俺の近くまでやってきた。
「のら犬さん? なんでもいいわ。お願い、わたしの姿を見て。『ねぇ……わたし、キレイ?』」
マスクをはずして、裂けた口元を見せた麗子は、にたりと笑って見せた。
『美しい……』
すっかり見惚れてしまった俺は、オオカミの姿であることを忘れて呟いた。
「の、のら犬さん? 言葉を話せるの?」
『なんてキレイなんだ……。その大きく裂けた口は最高にセクシーだ!』
人狼にとって、大きく開く口元は立派なチャームポイントだ。大きな口は、獲物をしっかりと捕らえ、大声で吠えることができるからだ。
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