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「人狼であるあなたに出会って、本当に良かった。だってあなただけが、わたしを認めて、キレイって言ってくれるもの」
『麗子はいつだってキレイだよ』
「ありがとう、あなた。でも世の人々は、わたしのことを忘れてしまったのかもしれないわ……。都市伝説であるわたしは、人々が忘れてしまうと存在する意味がなくなってしまうもの」
そう、麗子は忘れられることを誰より怖れている。だから何度も聞いてくるのだ。
「ねぇ、覚えてる?」と。
だからその答えはいつだって同じ。
「忘れないよ。覚えてる。口裂け女の君を」
麗子に一目惚れした俺は、彼女と共にひっそりと暮らしている。麗子との生活は幸せだけれど、不安はある。それは人間たちも同じだろう。
『都市伝説や化け物を怖がる余裕がないんだよ、今の人間には』
「そうね、人間たちも今は大変だものね……。わたしは、いいえ、わたしたちは忘れられてしまうのかしら?」
『明けない夜はないから心配するな。人狼の俺が言うのもなんだけど』
「そうね、きっとそうだわ。それを信じて今は待ちましょう」
麗子はオオカミ姿の俺を抱きしめると、その背に顔を埋めた。
「今晩はこの姿のままでいてくれる? あなたを感じていたいの」
『いいけどさ。明日はやめてくれよ。明日こそ君をこの手で抱きしめて、キスをしたいんだ』
「あら……。キスなら今の姿をでもできるわよ?」
麗子は切り裂けた口を閉じ、オオカミ姿の俺の口に、ちゅっとキスをした。
「ね?」
麗子はからかうように笑う。
ああ、今晩も君はなんてキレイなんだ。
心の中に描いていた情景とはちがうけれど、こんな夜もきっと悪くない。
何があっても俺だけは君を覚えてるよ。だってこんなに魅力的な女性を、忘れられるわけないだろ?
了
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