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「あれ?…佐藤?」
急に声をかけられた。
後ろを振り向くとクラスメイトの挟木優弥(ハサギユウヤ)と蒼がいた。
「やっぱ佐藤だったじゃん、蒼」
「背小せえから後輩だと思ったんだけどなー。違ったかー」
こいつにやにやして!確信犯だ!
否定はできないんだけれど、蒼に言われるから余計ムカッとする。
「確か、佐藤って家ここら辺じゃなかったよね」
「う、うん。おばあちゃんの家に行こうとして、まっ」
危なかったー。クラスメイトの前で迷子とは言えない。
「むぎ…同級生と話すのに緊張してるの?
プスススス」
私が一生懸命人と話しているんだから茶々を入れるな、茶々を。
「どうせむぎの事だから絶賛迷子中なんだろ?」
「ち、違うよー!何言ってるの蒼。気のせい気のせい(図星)」
「ふーん」
「あ、佐藤ここの道慣れてない?俺でよかったら案内するよ」
挟木ー!救世主、紳士!
今めっちゃ挟木が神々しく見えて眩しいよ。
「ありがとうございます!ぜひお願いしたい!挟木はほんと優しいだね」
「え、俺は?蒼さんは?」
この質問はもちろん無視する。それよりも、今自然に自分の口から出たタメ口に驚いた。私も一応成長しているみたいだ。
蒼の方は気にした様子はないので放って置くとして、私は二人がふざけあっている後ろについていく。
挟木はクラスで一番の話好きで、歩きながら私にも話をふってくれた。私が気が利いた返事ができるはずもなく、ほとんど相槌を打つだけになってしまったけど話はすごく面白かった。聞いてるだけで面白いっていうやつ?
とにかく無言で気まずくならなくてよかった。
5分くらい歩くと木造の家が見えてきた。新しいおばあちゃんの家だ。家の特徴はお母さんから聞いていたし、周りはコンクリートの家ばっかりだからすぐに見つけられた。
「ありがとう。本当に助かった」
「それなら良かった!じゃあな」
「うん!蒼もありがとう。じゃあね」
「てか、 優弥の家と近っ。 近所じゃん」
「だな~」
そんな会話が後ろから聞こえて振り向くと、二人が向かいの家に入って行く。 よく見ると表 札には 「挟木」 と書かれている。 本当に近、 お向かいさんじゃん! まあ、そんな事は一旦置 いといて、暑いのでとりあえず呼び鈴を鳴らして中に入る。
「おばあちゃ~ん! 手伝いに来たよ。 どこにいるのー?」
「むぎかい。 奥に居るから上がってきなさーい」
廊下を進むと涼しい風に乗った心地良い風鈴の音、 木の良い匂いがしてくる。
「久しぶりだね~元気にしてたかい?」
「うん、めっちゃ元気! で何か手伝うことある?」
「手伝いに来てくれたのかい? 遠いのに、わざわざありがとうね。 でもごめんね、丁度おわちゃったのよ」
そう言ってリビングに二人で冷たい緑茶を飲みながら、 ガールズトークに花を咲かせていた。 もうこっちで友達ができたとか、この小説がオススメだよとかとか。 ちなみに私の小説好きはおばあちゃん譲りで、東千尋ファンもその影響がある。
「そう言えばさ、今日お母さんが東千尋の新作...」
すかさずおばあちゃんに遮られる。
「むぎ…二日後貸しておくれ」
二人しかいない空間で親指同士を交わす。 そのあと、 何か思い出したのかおばあちゃん が寝室に行ったので、私はテレビを見てくつろぐことにする。 しばらくして、 呼ばれたの で、向かうとおばあちゃんは浴衣を持って待っていた。 「それ、どうしたの?」
「お母さんからのお下がりだけど、よかったたら貰ってちょうだい。」
そう言いながら黙々と私に着付け始める。 約10分後満足そうに 「うん!」と言って、 壁に
立てかけた姿見の前に私を連れていく。 自分で言うのもなんだけど、似合っていて可愛いと思う。 初めて浴衣を着たのが嬉しくて、他の誰かに見せたかったけど恥ずかしいから、誰にも 見えることがない庭に出てくるくると回ってみせる。
黒い生地に赤い花が描かれたシンプルなデザインで、私好みな浴衣だった。 サイズもぴった りなので貰うことになっちゃったけど、誘われることがないから浴衣着てどこも行かないん だよな。 悲しっ。
その頃向かいでは...
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