喜びの舞

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喜びの舞

「…ミーンミンミンミン…ミーンミンミー」 「ああ!!もう!!!暑いっ!」 夏休み。今、私はリビングのソファーでだらだらとアイスを食べている。 夏休み6日目で宿題はもう全部終わらせた。暇だ。とてつもなく暇だ。受験生がこんな事言っていられないのはわかってるけど、実感がわかないから仕方ない、そういうことにしておく。 暑いのが苦手な私は、ほとんど家から出ることはない。扇風機を「強」にして早く溶けるアイスを食べる、食っちゃ寝生活を6日繰り返していた。そのせいで少し肉がついてきたような。 「…バタンッ」 お母さんが買い物から帰ってきた。 「むぎー、あんたこんな生活してたら、夏休み明けには牛になってるわよー?動きなさいよ少しは。 宿題終わらせたのはいいけど、あんた受験生なんだからね、勉強もしなさいよ?」 お母さんは重たそうな買い物袋を持って冷蔵庫へ。 「 へ〜い」 「そういえばお母さんこっちに引っ越してきたんだった。そうだ!あんた手伝いに行きなさい。どうせ暇なんでしょ?運動になるわよ」 「あ!そうなの?…えー、でも暑いじゃん。外出たくない」 私がそう言うと、何やら本屋の紙袋から本を出して見せつける。 おっと?お母さんが持っているのは私が好きな小説家、東千尋(アズマチヒロ)の新作じゃないか! も、もしや行くのを条件に、私にくれるのか?くそう、このためにわざわざ本屋へ行ったのか… 「…行きます!行かせていただきます!!暑いのへっちゃらです!だからこれはもらっていいですよね??」 「ん?行って、手伝って、帰ってきてからね。あんた読み始めると止まらないんだから」 うぅ、図星だ。目の前でお預けはないよぉ。でも!東千尋のためなら行くぞ!私は! てことで、一応ジャージから短パンと T シャツに着替える。サンダルを履いて外に出ると、ただ立っているだけでじんわりと汗をかいてくるほど蒸し蒸ししていた。 外がすごく暑いのは地球温暖化が進んでいるからだろうか。私は暑いのが嫌いだから理由は何でもいいから、早く夏よ終わってくれと願うばかり。 おばあちゃんは坂の上の一軒家に引っ越してきたらしい。私の住む家は町の中にあるから、そこからだと少しばかり遠い。 なんで引っ越してきたのが私の家の近くではないのか、と言うと、おばあちゃんは遠い山に囲まれた田舎に住んでいて、農家をしていたけど余生は海の見える場所で暮らしたいと言っていたからだそう。 ここは海のある港町だから丁度いい。お母さんに渡された町の地図を見ながら家を探すが、これに問題があった。 地図には「ここら辺」と赤ペンで丸で囲まれている。ここら辺ってどこら辺ですかい? さすが、私のお母様ざっくりしてらっしゃる。 生まれてからずっとここに住んでいるからと言って、目的地に行けると思ったら大間違い。なんたって私は、地図があってもこの町内で迷う、生粋の方向音痴なんだから。狭い港町なのに本当に不思議な話だ。 「…ここら辺のはずなんだけど……どこだここ?」 あららら?この歳で迷子は嫌だよ? 今の時間帯はお昼頃だろうか。日はもう頭上にある。暑さのピークでもう歩きたくない、熱中症になってしまいそうだ。
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