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曾祖父(清隆)の手紙
智子へ
手紙ありがとう。
今、桜花のコックピットでこの手紙を書いている。
君の手紙を基地で読んで直ぐに駅まで走ったが、君を『探し出す』事は出来なかった。本当に残念だ。
僕は君の元に生きて帰ると心に決めていた。しかし一カ月前に桜花のパイロットに任命されてそれが叶わない夢となってしまった。
あと数十分で桜花を発進させる。そして僕の命は消えてしまうだろう。それが敵艦を巻き添えにする死なのか単独の死なのかは分からない。でも本当は一人で死にたい。敵艦に乗っている兵士達にも彼等を待っている家族が居る筈だから。
今、走馬灯の様に昔の事を思い出している。
君と出逢ったあの海岸、君が僕の求婚を受け入れてくれたのもあの場所だったね。
結婚式での君の白無垢は本当に綺麗だった。あの時、君を妻に出来てとても嬉しかった。そして一生、君を大事にして絶対に幸せにすると誓ったんだ。
四カ月前、君と最後に逢った時、あの海岸で僕は必ず帰ると君に誓ったね。日本が負けても他の兵隊が誰一人生き残る事が出来なくても必ず僕は君の所に戻ると約束した。
でもその約束を守れなくて本当にごめん。
そんな中でも僕達の子供が君のお腹の中に居る事を聞いてとても喜んでいる。
その子が生きる日本国の未来は、戦争の無い平和な時代であって欲しい。
それが僕の最期の願いだ。
それでは行くね。
泣き虫な君は僕の戦死の報を聞いて大泣きするかもしれないけど、僕達の子供の為にも元気で生きて欲しい。
いつまでも愛しています。
君と僕達の子供と、そして日本国が平和で幸せでありますように。
昭和二十年四月十二日
小林清隆
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