アメリカからのメール

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アメリカからのメール

 それは、今年一番の()だる様な暑さの日だった。でも空は真っ青に晴れ渡り雲一つない。  その青空にいくつかの飛行機雲が白い線を引いている。  七十年以上前のあの日もそんな天気だったそうだ。 ―――  お昼過ぎに僕の携帯が突然鳴った。それは祖父からの電話だった。 「裕翔(ゆうと)か? 久しぶりだな。大学はどうだ?」 「あっ、お祖父(じい)ちゃん。うん、もう三年生だから就職活動の準備をしてるよ」 「そうか。なあ裕翔、助けてくれないか?」  僕は突然の祖父の電話に驚きながらも、大好きな彼の頼みならと思っていた。 「うん、助けって何?」 「あのな。母さんが最近スマホを買ってな、SNSを始めたんだ。そこで友達も沢山できたと喜んでおったんだが、外国からの友達申請を承認したら、英語のメールが来た様だ。私達は英語が読めないから裕翔に助けて貰いたいと思ってな」  祖父が言う“母さん”とは僕にとっての曾祖母の事だ。既に九十四歳の彼女がSNSを始めたとは……。 「分かった。曾祖母(ひいおばあ)ちゃんは僕にメールを転送出来るかな?」  電話先で祖父が何かを確認している声がする。 「分からないそうだ、一度、こちらに来れないか?」 「分かった。今日は空いているから夕方に行くよ」 「そうか申し訳ないな。それじゃ、待っているぞ」  曾祖母と祖父の住む家は、僕の家から電車で一時間の距離に在る。  僕が彼等の自宅に到着すると、玄関先で曾祖母が迎えてくれた。  彼女は戦争で曾祖父を亡くした後も女手一つで祖父を育て、九十歳を超えた今でも矍鑠(かくしゃく)としている。 「裕翔、ごめんなぁ。わざわざ来て貰って」  曾祖母は僕を居間に案内するとお茶を出しながらそう言った。 「曾祖母(ひいおばあ)ちゃん、大丈夫だよ。届いたメールを見せてくれる?」  曾祖母は頷くと自分のスマホを僕に渡してくれた。彼女のSNSを開くと既に沢山の写真を彼女はそこに載せていた。僕が驚いたのは戦争中に撮ったと言う彼女の若い頃の着物を着た白黒写真がその中に含まれていた事だ。
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