とある僧侶の手記より

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 アルドが最果ての地下迷宮に足を踏み入れるのは二度目だった。  地下迷宮と言っても、一見すると朽ちかけた古城だ。山の上に位置し、その佇まいは物々しい。隠された通路を見つけることができれば、古城の下に眠る宝——願いの叶うグリモワールを手に入れられる。  結果的に、一度目は力不足に怖気づき早々に場を離れてしまったのだが……。  貴重な宝が眠るだけあって、そう簡単に侵入者をゆるさない。ところどころに行く手を阻む仕掛けが施してあり、アルドもその洗礼を受けた1人だった。  正面の入り口から難なく城内へ入り込めたものの目の前は突き当りだ。左右に廊下が伸びていて、それぞれの先に曲がり角が見える。回廊になっていると踏んだアルドは、気ままに右方向へと歩みを進め始めると、明らかに不自然な突起に出くわした。  不思議に首を傾げながら、何の気なしに踏んでみる。すると、振動と共にドスンと目の前が壁になってしまった。仕掛けが作動したのだ。  あまりの無知。あまりの浅はかさ。瞬時に体中から汗が吹き出し、滝のように流れていく。体も、とうてい自分の手に負えるところではないと訴えている。おそらく、これはほんの小手先調べ。この時点で命の危機を感じたアルドはすぐさま引き返した。   「ってことは、実際には地下へ足を踏み入れてないんだね」 「ええ、まあ。……おっしゃる通りです」    ”地下迷宮に足を踏み入れるのは二度目だ”などと、よくも言えたものだ。正確に話してみると、思いのほかアルドは何もしていなかった。すでに件の回廊を抜け、中庭で見つけた地下への入り口を前にして事実確認をさせられていた。   
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