とある僧侶の手記より

3/23
前へ
/23ページ
次へ
 グリモワールが諦めきれずにいたアルドは、たびたび古城の周りをうろついていた。こうして地下迷宮への入り口を見つけられたのも引き下がらずにいたおかげだ。  武器も扱えず、魔力も無く、僧侶といえど教会にも所属しておらず、出来ることといえば祈ることだけ。幸か不幸か、時は隣国と戦乱の渦中、どこへいっても救いを求める人々ばかりだった。乱れた世を巡り迷える民へ祝福の祈りを授けながら、わずかな糧食得たり日銭を稼いだりしてきた。  こうして暮らしを繋いできたがけっして十分とはいえない。なんの能力も持たない放浪僧である自分が、富や安寧を得られるとすれば、こんな曖昧なものにでもすがるしかなかった。  果報は寝て待ってみるもので、間もなく好機は到来する。近隣の村を拠点に気長に再挑戦する機会を伺っていたアルドは、王の勅命を受けた使者に出会ったのだ。  屈強な体躯の戦士ローランに、力強い眼差しを持つ英雄ニコ。彼らもまたグリモワールを求めていた。彼らは見るからに頼もしく、共に宝を手にする未来が想像できた。そして都合のいいことに、僧侶を探していたというなら同行を引き受けるしかない。  とはいえ、あらかじめ、祈ることしかできないと、正直に告げた。落胆されるのは本意でない。しかし、彼らはそれでもいいというではないか。  グリモワールを手にしたところで、古代文字で書き記されている書物を読める者がいなければ話にならない。特別な能力はいらない。古代文字が読めさえすればいい。こんな好都合は無いではないか。しかも、これまでの生きざまからしてみれば初めて胸を張れる役割だ。   
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加