記憶の楔《くさび》

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俺は、ハッとして腕時計を見る。 ヤバッ! もう、次の電車も出てしまった。 こうなったら、いっそ午後から出勤しようか。 そう思って公園のベンチに腰かけ、空を見上げた。 青空が、なぜか歪んで見えた。 携帯電話が鳴る。 会社からだ。 出ようか、やめようか、何といい訳しようか、と・・・ 迷い続けたが、電話が鳴り止まないので、しぶしぶ電話に出る。 「大丈夫か? 生きてるのか?」 課長の声は、異常に興奮している。 「えっ? 生きてますけど・・・」 「怪我は? 怪我はないのか?」 「怪我? 別に怪我してません。」 「外に出られたのか?」 「外に? はい。今、まだ家の近くの公園にいます。」 俺は、何だか課長の質問の意図が分からず、ついつい正直に答えてしまった。 「公園にいる? 電車に乗ってないのか?」 「すみません。ちょっと電車に乗り遅れて・・・その・・・まだ家の近くの公園にいました。」 「よかった・・・よかった・・・」 なぜか課長は、泣きそうな声で、そう言った。 
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