記憶の楔《くさび》

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俺が乗るはずだった電車が3つ先の駅を通過した後、脱線事故を起こし、多くの死傷者がいるらしいことを知った。 同じ職場の十数人が、その電車に乗っており、連絡のつかない人が何人かいるのだと課長は震える声で説明した。 課長の話を聞いても、いまいち事の次第が飲み込めない気がした。 飲み込めないのではなく、その大惨事を身近な現実として理解することが怖かったのかもしれない。 何となくボーッとしたまま、まるで海の底に沈んだ街を歩いているような揺ら揺らした感覚で、俺は家まで帰りついた。 俺は一人暮らしの自室に戻り、TVの臨時ニュースで事故の様子を見た。 俺がいつも乗車する1両目の電車は原型をとどめない世にも恐ろしい無残な姿を露呈している。 ショックで俺は気を失いかけた。 全身が震え、涙が滝のように流れた。 何時間もの間、俺はTVから目を離せなかった。 見るともなく聞くともなく、起きたまま失神していた。 携帯電話が何度か鳴ったけれど、俺は動けなかった。 やっと気を取り戻した時、もう夕方だった。 実家に無事を伝える電話をして、水を飲み、トイレを済ませて寝込んだ。
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