記憶の楔《くさび》

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夢を見た。 流星が、広い草原の向こうから駆けて来る。 流星の笑顔なんて見た記憶もないのに、彼は笑顔で俺に手を伸ばす。 俺は、その手に、手を伸ばすことができない。 怖い。 彼と、いっしょに遠くへ行くのは嫌だ。 ごめん。 俺は、あの時、お前の気持ちを本気で、わかろうとしてなかった。 俺は、あの時、俺は病気ではないことに安心したまま、病気と闘っているお前のことを心配していた。 それって、まるで映画を見ているようなものだ。 映画の中で、戦争が起きても、嵐が吹き荒れても、人が死んでも、まるで自分は痛くも痒くもない。 お前が、死に直面しながら、どんな気持ちで1分1分を過ごしているかなんて、所詮、俺には理解できなかった。 未だに俺は、お前が差し伸べる手を恐れている。 死にたくない。 まだ、死にたくない。 そう思う自分のエゴを最優先して、お前が立ち向かっている死の淵から1㎝でも遠くへ離れたいと、俺は思っている。 本当は、寄り添うべきなんだ。 結果として自分が、死んでも生き延びても、お前を、ひとりぼっちにすべきではないんだ。 お前であれ誰であれ、死の淵に近い人であれ誰であれ、救いを求め、手を伸ばしてきたなら、俺は手を差し伸べるべきなんだ。 ああ、神さま。 俺は、やっと、そのことに気がつきました。 手を差し伸べたからと言って、俺が死ぬとは限らない。 手を差し伸べることで、救いを求めている誰かが、ほんのひと時でも安心できるなら、それはお互いの幸せではないか。 それこそが、希望であり、ぬくもりであり、幸せではないか。
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