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主のいないお見合い
地下鉄を乗り継いで目的駅までたどり着くと、改札で両親が待っていた。ここから歩いて十分と少しの距離に見合い会場の会員制レストランがある。知る人ぞ知る有名な店らしい。
約束の時刻にレストランの前まで着いたら、自動ドアでもないのに自然とドアが開いて店員が出迎えてくれる。レストランの玄関に小さな窓があって、中から客がくるのを待ち構えているのだ。完全予約の上、必ず顔を覚えられている会員制なので、間違えることがない。入口からエレベーターへ向かい店員がドアの前で礼をしてくれる。エレベーターが二階へ到着すると同じ店員がいつの間にか二階へ上がっていてエレベーターの前で待ち構えている。サービス過剰で小枝には気味が悪い。
相手方も間もなくやってきたので三人で立ち上がって待機していると、そこには見合いの相手である若い男性はおらず、年配の夫婦と美しい女性が立っていた。はて、自分は女性と見合いをするのだったかなと小枝は首を傾げたが、話によると目の前の夫婦の息子は見合いにきたがらず、かわりに姉が来たらしい。夫婦はひたすらに謝っていたが、その姉という人がとても理知的で賢い人だったので、食事は楽しく進んだ。
デザートはレストランの売りである十色以上もある色とりどりのかわいらしいゼリーだった。それぞれに違う味がついていて、好きな色を選んで取って食べるのだ。小枝は透明なグリーンのゼリーを選んだ。ペパーミントの味がする。高級な食事に楽しい会話。けれどもなんともいえない不愉快さ。甘さを抑えたミント味が苦く思える。
見合いのはずではなかったか。当の男が現れなければ、小枝は恥をかいたことになる。気乗りしなかったのはこちらも同じこと。なぜのこのことやってきたのだろう。心のどこかで見合いによるすてきな出会いに期待していた自分自身に気づき、小枝はひどく屈辱的な感覚に打ちのめされていた。
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