告白

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 柳井が選んだレストランは職場から車で二十分ほどのベーカリーレストランだった。手頃なフランス料理と食べ放題の焼き立てパンで有名なチェーン店だ。小枝も以前、他の同僚ときたことがあった。見合いの日に着ていたオフホワイトのスーツを選び、仕事の後に駐車場で待ち合わせた。 「あの店にしたのね」 「はい、あまり高級なお店は知らないので」  運転席でハンドルを握る柳井の横顔がいつもより頼もしく映る。取り立ててハンサムというわけではないが、小枝は柳井の穏やかな風貌に好感を持っていた。 「私もあそこ大好き。パンがおいしいよね」 「よかった、鶴田さんの好みで。食べ放題いいですよね」 「そんなにたくさんはお腹に入らないけどね」  三十前の二人にとっては食べ放題はありがたいが、食べ盛りの子どもほどには腹に納めきれそうにはない。  仕事の話題や上司の愚痴を言い合いながら囲む食事はとても喜ばしかった。この男とは気が合う。つきあうのも悪くないと、そっと心の底で無意識が首をもたげた瞬間、柳井が口を開いた。 「鶴田さんさえよければ、僕とつきあってほしいんです」 「え、どういうこと?」 「もしよかったら、結婚を前提につきあってください」  今までそのような素振りを見せたことのない柳井が、突然言ってきた台詞に戸惑う。結婚を前提に。ついこの前、見合いで屈辱感を叩きつけられた小枝の精神に、柳井の率直な発言がじわりと染み込んできた。 「いいの? 私なんかで」 「僕は鶴田さんがいいんです」 「じゃあ、喜んでお受けします」  気づいたら、受けていた。目の前に鎮座している純白のカップに入ったコーヒーが冷めかけている。取り替えてもらったばかりの水の中で、氷がカランと音を立てた。ほのかなBGMも店内のさざめきも瞬間に聞こえなくなった。柳井に恋をしているだろうか。まだわからない。恥をかいた見合いの腹いせではないか。それも不明だ。 「あ、でもこの前、お見合いしてましたよね、鶴田さん」  柳井は控えめに声をひそめる。見合いの件を詳細に話す気分にはなれなかった。それはひどく恥ずかしい告白になりそうで。 「うん、まあね。断った」 「そうですか、安心した」 「そうなの、だから気にしないで」 「もう別の人とはお見合いしないでくださいね」  コーヒーカップに口をつけて微笑む柳井は本当に安心した表情をしている。  見合いのかたきをここで取った。少しばかり不遜な気分をひっそりと胸の引き出しにしまい込み、静かに鍵をかける。この人なら私を幸せにしてくれるだろうか。私はこの人を幸せにできるだろうか。
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