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幸せが続く予感
一度結婚を決意すると気持ちが強くなるのか、小枝は力強く準備を進めた。まずは両親の説得から。頑固だと感じていた両親は、帰りの遅くなって久しい一人娘の恋に諦めていたらしい。
「小枝さんがそんなに本気なら好きにするのがいいわ。もう大人なんですから」
「そうだな、その柳井武くんという人を連れてきなさい」
父は頼んでもいないのに釣書きを用意するという。柳井にもそれを願ってきた。少し嫌な気持ちになったが、小枝が柳井に話すと彼は快く自分の両親から釣書きを書いてもらってきた。
柳井の両親はいたって普通の家庭のようで、釣書きを見ても両親は特に文句も言わなかった。親や親戚の学歴、職歴は小枝の家庭のほうが世間的に「より高い」と言われがちな感じがしたが、小枝はそのような価値観はどうでもいいと思っていた。人間は学歴や職歴で測られるものではない。相性が合うか、信頼できるかが一番大切なことなのだと信じている。
柳井が「お嬢様と結婚させてください」と正座して挨拶しにきた際も、小枝の両親は気持ちよく迎えてくれた。小枝は自分自身が認められたような気分になって、とても嬉しく感じたものだった。一切のトラブルもないまま両家の顔合わせも済み、一つひとつのタスクがこなされていく。式場もうまく決められた。もっと先になるかと心配していたのに、二ヶ月後には式を挙げられることになった。
「なんだかうまくいきすぎて怖いくらい」
顔合わせの翌日、日曜日のドライブついでに衣装の試着に行った。小枝は母親とすでにウェディングドレスを決めていて、今回は柳井のタキシードを決めるだけだった。モデルのように美しい体型の柳井はどれを試着しても問題がなく、店員が驚くほどだった。
「理想的な体型のかたですね。お客様、選び放題ですよ。珍しいことですわ」
「ありがとうございます、柳井くん、それ格好いい」
「ほんと? じゃあこれにしようかな」
「お嫁様のドレスもとってもお美しいんですよ。ぜひお婿様にご覧に入れたら」
「小枝さん、僕にも見せてよ」
少し面倒だが柳井のために小枝はウェディングドレスに着替えた。細身のシンプルなデザインだ。首から肩がぐっと開いていて、きらきら光るティアラもついている。
「どうかな、こんな感じなの」
「小枝さん、すごくきれいだよ」
「ありがと、あなたにそう言ってもらえると嬉しい」
「誇らしいよ、こんなにきれいなお嫁さん」
ふふ、と笑って小枝は鏡の中の自分を見つめた。我ながら美しいと思う。どんな花を飾ろうか。青系、黄色系、ピンクかグリーンか。白で統一するのもいい。心の中で結婚式を挙げている様子が想像できた。幸せだった。隣で微笑みながら柳井が鏡の中で寄り添ってくる。
「これで完璧な結婚式ができそう」
「ほんとだね」
胸の中にさざなみのようにほのかな幸福感が広がっていく。これでずっと彼のそばにいられるのだ。今すぐ抱きしめてほしい。でも店員がいるから無理だ。もどかしく愛おしい気持ちがつのっていく。
幸せがずっとずっと続く。小枝は確信していた。
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