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結婚式の介添えを頼まれた。
みんなに反対されていて、それでも、こっそり挙式したいのだという。
「狐と狸ですから。最近はずいぶんと自由化が進みましたけれど、種族を超えると不都合もあるみたいで」
美しい白無垢を用意した花嫁は、あきらめの混じった微笑みを浮かべていた。
花婿もたいそう美しかった。こちらは、一度でいいから真っ白なドレスやタキシードを着てみたかったのだという。
貸衣装店から借り受けた衣服を、よごさないよう気をつけながら着付けて、森のそばのあずまやで写真を撮る。
写真家が彼らを美しく記録する。ケータリングのプロが並べた料理は、おいしそうにつやつやと光っている。
結婚を、ゆるしてくれなかった狐や狸たちのために、ご贈答用のおいしいクッキーなどを発送する。
こうした手配は、以前経験したことがあるから得意だった。
それにしても、なぜ、帰宅途中の私に急に駆け寄り、依頼してきたのだろうか。
つつがなく結婚式やもろもろの手続きが終わり、持ち帰り用に料理を詰めてもらったものを受け取るとき、花嫁がそっと教えてくれた。
「動物園にいたときも、あなたは対等な目でわたしたちを見ていたでしょう? とても、とてもフラットな目で」
かわいい動物さん、という観察の目ではなくて。
動物園に行ったのは、もっともっと、ずっと幼い頃だけだ。
そんなに長く、昔のことを、花嫁はよく覚えていたものだった。
「どこかでまた、会えましたら。あなたの幸福をお祈りしていますね」
花嫁の言葉に、それはこちらの願いだと、贈りかえして、日が暮れつつある道を一人で帰った。
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