そんなあなたにお祝いを

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 結婚式の介添えを頼まれた。  みんなに反対されていて、それでも、こっそり挙式したいのだという。 「狐と狸ですから。最近はずいぶんと自由化が進みましたけれど、種族を超えると不都合もあるみたいで」  美しい白無垢を用意した花嫁は、あきらめの混じった微笑みを浮かべていた。  花婿もたいそう美しかった。こちらは、一度でいいから真っ白なドレスやタキシードを着てみたかったのだという。  貸衣装店から借り受けた衣服を、よごさないよう気をつけながら着付けて、森のそばのあずまやで写真を撮る。  写真家が彼らを美しく記録する。ケータリングのプロが並べた料理は、おいしそうにつやつやと光っている。  結婚を、ゆるしてくれなかった狐や狸たちのために、ご贈答用のおいしいクッキーなどを発送する。  こうした手配は、以前経験したことがあるから得意だった。  それにしても、なぜ、帰宅途中の私に急に駆け寄り、依頼してきたのだろうか。  つつがなく結婚式やもろもろの手続きが終わり、持ち帰り用に料理を詰めてもらったものを受け取るとき、花嫁がそっと教えてくれた。 「動物園にいたときも、あなたは対等な目でわたしたちを見ていたでしょう? とても、とてもフラットな目で」  かわいい動物さん、という観察の目ではなくて。  動物園に行ったのは、もっともっと、ずっと幼い頃だけだ。  そんなに長く、昔のことを、花嫁はよく覚えていたものだった。 「どこかでまた、会えましたら。あなたの幸福をお祈りしていますね」  花嫁の言葉に、それはこちらの願いだと、贈りかえして、日が暮れつつある道を一人で帰った。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!