思い出話

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中学生の時、仲の良かった女の子がいた。 控えめな性格で教室の隅で本を読んでいるような子だった。 目元まで掛かった前髪の隙間からいつも人の顔色を伺っていて、まだ成長期の来ていない私よりも背が高かったのに、小動物のように感じていた。 どうして仲良くなったのかは、実のところ覚えていない。 席が近かったとか、クラスの係が一緒だったとか、何か話さなければならない状況があって、そこから少しずつ距離が縮まっていったのだと思う。 彼女はすぐに思い悩んでしまう性格だった。母親に言われたこと、先生に言われたこと、できなかったこと、やってしまったこと、私は気にも留めないようなことで悲しんだり、苦しんだりしていた。 中学生特有の自信に満ちあふれていた私は彼女を救いたいと本気で思っていた。悩みを聞いて、共感して、アドバイスをして、時には休日遊びに誘ったり、放課後の教室で暗くなるまで他愛もない話をしたり。 彼女の好きなものを共有したくて、読んだことのなかった本を沢山読んで、聞いた事のなかった音楽を沢山聞いた。 中学校3年間の思い出はどこをとっても彼女がいた。
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