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その後、大学に行きたかった私は少し遠くの進学校に入学した。彼女は地元の服飾系の高校に進み、それ以来連絡は全く取らなかった。
彼女と同じ高校に進学した友人からも話を聞くことはなく、自然と彼女との記憶は薄れていった。
しかし、先日友人が思い出したように彼女の話をしたのだ。
中学の時の思い出話で酒を飲んでいたときのことだった。
「○○って覚えてる?」
私はもちろんと答えた。彼女とは仲が良かった。今はどうしているのかと尋ねようとした。
そんな私を遮り友人は
「最低だったよな。」
と、言った。私は咄嗟に、友人が何を言っているのか分からなかった。
ひょっとして他に同じ名前の同級生がいただろうかとさえ思った。
友人曰く、彼女は嘘つきだった。
友人曰く、彼女は人を貶めるようなやつだった。
友人曰く、何度も迷惑をかけられた。
友人曰く、ほとんどの人が嫌っていた。
友人曰く、―。
私はそれ以上聞いていられなくて、酔いが回ってきただの何だのよく分からないことを言って、席を立った。
トイレの鏡に映った顔は少しやつれていた。
確かに彼女はネガティブだった。
私の前にいた彼女が、彼女のすべて出ないことは分かっている。
だが、俄に信じられなかった。
いつも不安げな顔をしていた彼女が、私の些細な冗談に笑みを零す彼女が、そんなことをする人だったのだろうか。
そんなはずがないと断言できるほど、私はもう若くなかった。
悪意のあるなしにかかわらず、人には様々な面があり、欠点のない人はいない。
私が見たことがないだけで、彼女にもそんなところがあったのかもしれない。
それでも私は光を失ったような、そんな気持ちになったのだ。
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