思い出話

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その日の帰り道、湿気を含んだ生ぬるい風に吹かれながら月を見ているとき不意に、初恋だったのかもしれないと思った。 友人の言ったことをすべて信じたわけではないが、友人の口振りは当然私もそう思っていることが前提になっていた。 それほどまでに彼女の悪い面は知れ渡っていたのだろう。それに友人の方が彼女との付き合いは長いのだ。 しかし、私は彼女に嫌悪感を抱いたことはないし、むしろ善人のように感じていた。彼女との思い出はどれも幸せなものばかりだ。 今から思えば、この盲目具合と、無限に湧いてくる幸福感は、恋だろう。 そう思うと、心が軽くなった気がした。 私が好きになったのは、控えめで、小動物のようで、か弱い女の子だ。 実際の彼女がどうだったのかは今となっては分からないし、知る必要もない。 地元を離れた私が、彼女に会うことはもうないだろう。 ならば、友人の話は置いておいて、思い出は初恋として美しく飾ったままでいいだろう。
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