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なにかの思いを吐き出そうとするたびに、木苺の実がぽん、ぽん、と飛び出して、ついにはベッド一杯になるのです。王子様があわてて王様を抱きかかえようとしましたが、木苺はあふれ出します。笑い声も、誰かを諭す声も、誰かに謝る言葉も、全て木苺になります。王子様はぼうぜんと、王様が木苺に埋もれるのを見ていました。王様は面白くなりました。
笑いながら、王様は立ち上がりました。そして木苺を口の中から吐き出しながら、歩きだします。
たどり着いたのは、薔薇園です。
薔薇の精霊が真っ青な顔をしています。
王様は何かを知っている、という顔をしながら顔を横に振ります。
その間にも木苺の実は増えていきます。
王様はその薔薇園のすみっこに、座ります。
そのまま丸くなって寝てしまいました。木苺は薔薇園を全て覆いつくすほど王様の口からあふれ出て、薔薇の棘で傷ついた木苺は、赤黒い果汁を辺り一面にまき散らします。
そして、薔薇園を覆いつくすと、木苺は増えるのを止めました。
王子が王様を助けようと薔薇園に入ります。真っ白な王子が赤く染まります。
薔薇の精霊はもう何も言いません。
結局、王様は見つかりませんでした。ただ、小さな木苺の苗木が隅っこに木苺の湖の上に浮いていました。
王子は黙ってその木苺の苗木を大量の木苺の実と薔薇の木を取り除いた広い庭に植えました。
すると、「ふわあ」と一株の木苺から声がしました。
それは小さな声でした。王子様が驚いて見ていると、一株の木苺から、小さな小さな精霊が出てきたのです。
「お前は木苺の精霊かい?」
優しく王子が精霊に聞くと、悪戯な顔をした精霊はえへん、と笑うのです。
「そうさ、僕は木苺の精霊だ。君が僕を土の中に埋めてくれたの?」
「そうだよ、小さな木苺よ、大きくなるまでここにいるがいいさ」
「ありがとう。ここは素敵な場所だね。気に入ったよ。君と友達になってあげるよ。僕はとても美味しい。色んな人の喉やお腹を満たすことができるのさ」
「そうかい、木苺の精霊よ。僕と友達になっておくれ。君はとても、美味しい」
王子さまは王様の代わりに城壁の外へ行きます。
この国の民の中で飢えている者は誰一人おりません。
平穏な村や街の中には必ず木苺が成っていて、それを誰もが食べる事ができました。
この国の中は全てが満ち足りています。
そして大切な人達が住んでいる場所に決して不幸が入り込まないように、白い王子は城壁の外で、自分の手を真っ赤に染めるのです。
【木苺の王と白薔薇の王子】完
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