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「私と友達になろう、木苺の精よ。そして私の愛する民の友にもなっておくれ」
かくして木苺の精と王様は友達になったのです。木苺の苗が大きくなり、何株にも増えると、王様は兵隊に命じて少しずつ街や、村の角に木苺の苗木を植えたのです。
その木苺は黒い木苺でした。潰すと、赤黒い瑞々しい果汁で指を染め上げます。子供は小さな指でつまんでそのまま口に入れました。お母さん達はその木苺をジャムにします。男達はその果汁で蒸留酒を作ります。はたまた木苺で織物を染めるものがいます、パイの中に入れて焼き上げたりする娘さんもいます、砂糖菓子になった木苺を息子のお土産に兵隊さんが買っていきます。木苺はこの王国のどこででも見るようになりましたし、王国のみんなの友達になりました。
その王国の人々は、王様の事を【木苺の王】と親しみを込めて名前をつけました。
王様は戦がお強く、またお優しい方でした。誰からも恐れられて、愛される方でした。
唯一心配な事はと言えば、お世継ぎの事です。王様がお忙しいせいでしょうか。王様とお妃の間にお子がなかなか生まれません。
お妃は薔薇の精にいつも涙ながらに囁きます。どうしてかしら、と。
「ねえ、薔薇の精よ。どうして王様は戦ばかりしているの?私の元には少しだのに、私の庭にはよく行くのに、あなたの美しい花には手も触れずに木苺と戯れているのは、どうして?王様は私を愛してくださるけれど、足りないと思うのは私のワガママなのかしら?」
すると薔薇の精は優しく答えるのです。
「可愛い私のお姫様。あなたがどうしてワガママなのだろうか。あなたに間違いはありませんよ。王様があなたに真摯ではないだけ。あなたに罪などあろうはずはないのだ」
「ほんとうに?ではどうすれば王様が私と向き合ってくださるのですか?そして早くあの人の子供が産みたい…」
そう言って可哀そうなお妃さまがさめざめと泣くのでした。
さて、薔薇の精は長年、苛々としているのでした。
お妃の友として王様の広い庭園で薔薇の精は真っ赤な薔薇を大輪咲かせておりました。
それなのに王様は哀しそうな顔をして、「この薔薇は血の色によく似ていて、胸が痛む」と言ってなかなか薔薇を慈しんで下さらないのです。
それなのにある日王様が小さな苗木を薔薇の園に持ち込んで、赤黒い醜い実をつける木苺を愛したことが誇り高い薔薇の精には我慢がならないことなのでした。
そこで、薔薇の精は恐ろしい事を考えました。
(あの木苺の精を殺そう)
そうすればきっとお妃さまはさめざめ泣くこともないのです。薔薇の精は、美しい顔を親密そうに歪ませてお妃さまに笑いかけました。
「ねえお妃さま。私達精霊は生の息吹を使うことができます。私達は生命が育つのを助ける事ができるのをお忘れですか?」
「忘れてないわ、でもそれはお前たちの花を咲かせる為の秘術でしょう?」
「そうです、だけれど私はあなたの友達、もしも一つお願いを聞いてくださるなら、あなたと王様のお子を授けましょう」
「勿論ですわ。なんでも聞きますとも。さあお話してくださいな」
お妃さまの目が輝きます。薔薇の精はできるだけ、お妃さまの為を思って、というような顔をして言いました。
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