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王国の民はいつも赤薔薇をさしている王子を【白薔薇の王子】と呼びました。麗しい若君、白がよく似合う王子と、黒がよく似合う王様が連れだって歩くと、皆は目を細めました。
王様が戦争が帰ってきた夜は、王子は王様の膝に座り、優しい王様が親指を差し出すと、ちうちう、と吸うのです。それが美味しくてたまらないのです。
王様は黙って笑み、王子に分け与えます。死にゆく戦士、生きねばならない兵隊にも同じだけ、王様は分け与えています。
「ねえお父様、王国の外はどうなのかしら。お父様はよく出かけて、疲れて帰ってくるけれど」
「外は怖い所さ。お前が安息で暮らせるように私はうまくやろうと思うよ」
そう言って王様は王子の頭を撫で、二人きりの親子は共に同じベッドで寝ます。
だけど、だけれどです。
王子さまはある時から気が付いています。王様から良い匂いがします。王様の寝息が心地よい音楽です。
夜中、王子は一人で目が覚める時があります。
王様の指を舐めます。
すると、喉が潤う気がします。
寝息をたてている口に指をいれ、口の中を掻きまわして、指を引き抜いて自分の口の中に入れます。なんたる芳醇の味わいか。
王子はこの気持ちが解りません。解りませんが、これは正しい感情なのだと思いました。
いつの間にか、王子は眠る王様に口づけすることを覚えました。
王様を抱きしめて眠ると、この世で幸福な気分になりました。
でも、王様は知りません。
なぜなら王様はとても優しいのです。
愛する者が沢山ありすぎるのです。だから一つの小さな変化に気が付きません。
そして愛する者を守るために傷つくことを恐れない強い王様なのです。
王子が18になった時、王様はいつものように疲れて王国の外から帰ってまいりました。
その時分になりますと、王の黒い髪に少し、王子と同じような白い髪が混じるようになりました。
王子はますます綺麗になります、美しさがぞっ、とするような気配もあります。
薔薇の匂いたつような美貌を兼ね備えた王子は戦争から帰った体を熱めのお湯に浸した柔らかい布で王の体を清めるのを手伝っております。王様はそれをありがたく思っていたので、王子がするままに、されるがままになっておりました。若くない体に疲労がたまっているのか、うとうととしていると、王子が優しく声をかけます。
「お父様、どうぞ横になってください」
「そうかい、それでは言葉に甘えるよ」
そう言って王様は寝所のベッドに横になります。王子は優しく体を拭いています。段々と寝息が王様から聞こえてきます。
すると、王子は王様の薄く纏っていた衣服をすべて剥いでしまうのでした。王様の、バランスのとれたたくましい体があらわ、になります。
そこで王子も、自分のお召し物をすべてとりさって、王の体に覆いかぶさるのです。すると、まるで王様が自分を育てた母体のように感じます。王子は急に空腹を覚えます。
最近の王子は王様が親指を傷つけなくとも、自分があの木苺の果汁をどこから飲むことができるのか、解っていました。
子供の頃から、王子は思っておりました。
王様は、美味しいと。
あれを食べたいと。
でも、まだだ。なぜなら王子の体が熟れていないからです。
まだ熟していないからです。
でも最近、十分になっていました。もう、十分です。熟れ時は解っているのです。
王子はそっ、と王様の唇に唇を重ねました。すると、瑞々しい味がしました。舌を入れると、後から後から蜜が出ます。
王様はもう随分食事をしておりませんでした。水と太陽があればよいのです。
それは果たして、人間なのでしょうか?
いいえ、人間はもっと汚いものです。
だとしたら王様はなんでしょう。
まるで王様は生きながら、精霊になっているかのようです。
この王国の城壁を覆う木苺の精霊のようです。
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