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案内係のあとに続き、ガラス製の自動扉を抜けて建物の中に入ると、ひんやりとした空気が肌に伝わった。殺風景なエントランスを抜け、少し進むと、赤、青、黄、緑の4つの扉が横一列に並んでいるのが見えてきた。
「アナタノシアワセハ、トビラノサキニマッテイマス。ドウゾ、オスキナトビラヲヒトツ、オエラビクダサイ」
幸せ。
A子にとって、その言葉から連想する色と言えば、黄色しかなかったから、迷うことなく、向かって右から2番目の扉を指さした。
「コンゴノナガレハ、ヘヤニナガレルオンセイアンナイニシタガッテクダサイ。ソレデハ、イッテラッシャイマセ」
案内係はそう言い残して一礼してから、右手にのびる廊下を奥のほうに進んで行った。
A子は黄色の扉のノブに手をかけ、くるっと捻ってから手前に引っぱった。隙間から中を覗くと、10畳ほどの窓のない空間がひらけていた。白い壁と天井に囲われているその空間は、テレビ台のうえに置かれた小さなモニタ以外、特に目につくものはなかった。
「ここに幸せはありません」
どこからともなく、そんな声が聞こえてきたので、A子は驚いて周囲を見渡したが、スピーカーのようなものは見当たらなかった。そうかといって、モニタの画面も真っ暗なので、そこからの音でもなさそうだった。
途方に暮れていると、突然、モニタが青白く光った。
数秒後、燦燦と太陽が輝く青空の映像が映し出され、続いて青いワンピースをまとった女の後ろ姿があらわれた。空は晴れているはずなのに、女は日傘ではなく、透明のビニール傘をさしているのが不思議だったが、そもそも、この映像は何を意味しているのだろうかと、A子が疑問を抱いたそのときだった。
傘をもっていないほうの女の手が、手招きするような動きを始めた。それを見た瞬間、A子はあっと思って、急いで黄色い扉のほうに引き返し、その部屋を飛び出した。
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