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A子は緑色の扉をひらき、ふたたび廊下へ出て、いちばん左端の部屋を目指した。
赤色の扉をひらくと、白いカウンターがあって、その上に赤い錠剤が入ったビンが置かれていた。やっと探し求めていた幸せの薬にたどり着いたようだった。
A子はビンを手に取り、胸にあてがう。じらされた分、手にしたときの感激はとてつもなく大きかった。カウンターの向こう側には白い柵があって、多くの人びとがうごめいているのが目に入った。
媚薬を手に入れることができた人たちが、お祝い事でもしているのだろうかと想像しながら、A子は早速、ビンの蓋をあけ、赤い粒をひとつ、口に含んだ。
数秒後、頬がぽっと熱くなり、体が宙に浮かんでいるみたいな、ふわふわとした感覚が起こった。なんて心地いいのだろうと思ったA子は、もうひとつ、赤い粒を口に含んだ。
うっとりとした気分で赤い塊がひしめくビンを見つめるA子。その目は、シールに印字されている小さな文字列を拾っているはずなのに、視界が霞んでいるせいで、はっきりと読み取れない。
ここにたどり着くまでずいぶん手間取ったから、疲労が出てきたのかもしれない。A子はそんなふうに解釈しながら、さらにもうひと粒、媚薬を口に含み、黒い文字列に目を凝らした。
「……げ・ど・く・ざ・い」
声に出してみたものの、A子の脳内ではそれが何を意味するのか、うまく変換できない。
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