忘れられた扉

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                 *  あなたは、TOWAを服薬するに相応しい人間であるとの判定がなされましたので、当協会より無償にて提供させていただくことに決定いたしました。  つきましては、2021年8月×日13:00にB市営地下鉄のC駅までお越しください。北口改札を出たところで、案内の車が待機しておりますので、その後の流れにつきましては、係員の説明に従ってくださいますようよろしくお願い申し上げます。  なお、混乱防止のため、当通知書があなたのもとに届いたことをはじめ、書面に記されている内容等口外厳禁です。もしも違反行為が発覚した場合には、あなたに付与された権利ははく奪されますので、その点ご理解くださいますよう重ねてお願い申し上げます。                  *  A子は何度も本文を読み返していた。そのたびに、自分が選ばれし人間であるという実感が増していった――  わたしは生まれながらにして美しい顔を持っていた。ファッションセンスもあった。エステに通って身体を整えることを怠らなかった。だから、地位も財力もある高学歴の男を惹きつけられたのだし、結婚することができたのだ。タワーマンションの最上階に住むことができたのは、結果的にわたしが優れていたからに違いない。  そして、わたしの遺伝子が娘に受け継がれたからこそ、娘もまた、優秀な医者と婚約することができたはず。息子もまた、わたしという人間を選んだ夫の遺伝子が受け継がれたからこそ、有名大学に合格し、有名企業に就職することができたのだ。  何もかもがスムーズに進んできたのは、わたしが特別な存在だったからに他ならない。
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