忘れられた扉

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 自分は選択を誤ってしまったみたいだが、でも、きちんと正しい扉のほうへ導いてくれる仕組みになっているらしいということにA子は気づいたから、迷うことなく左隣に位置する青色の扉をあけて、部屋の中に入った。  瞬間、視界が緑色に染まった。咄嗟に、部屋を間違ってしまったのかと思って、振り返って扉の色を確かめるも、それは間違いなく青色をしていた。  見渡すと、部屋の壁や天井は緑色を基調とした壁画のようになっていて、四つ葉のクローバーのかたちをした、透明のカプセルに包まれた少女が、あちらこちらに描かれていた。  犬と戯れる少女、絵本を読む少女、湯船ではしゃぐ少女、おいしそうにパンを頬張る少女、海を泳ぐ少女、花冠をこしらえている少女、シャボン玉を吹く少女、父親らしき男性とボール遊びをする少女、母親らしき女性とほおずりする少女。ふたりの大人にはさまれて、すやすやと眠っている少女。  少女の顔が誰かに似ている気がしたが、それが誰なのか、A子は思い出せなかった。  いずれにしても、どれもこれも幸せそうな少女ばかりだったから、A子はこの部屋のどこかに媚薬が隠されているはずだとあたりをつけた。  ところが、改めて部屋の中を見渡してみるも、そもそも棚や机などなく、媚薬が隠されている気配がなかった。  ぼんやりと壁画を見つめているうちに、A子はまたしても、あっと思った。  どうやらこの部屋ではないらしいことに気づいたA子は、青色の扉をあけて部屋を出て、今度はいちばん右側にあった緑色の扉を目指した。
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