忘れられた扉

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 緑色の扉を開くと、部屋はがらんどうで、117に電話をかけたときに流れてくる時報のような音が聞こえてきた。 『ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピーン 只今、21年4ヶ月16日13時間43分20秒を切りました』  いったい何をカウントしているのだろうと思いながら、A子は耳をすませる。 『ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピーン 只今、21年4ヶ月16日13時間43分10秒を切りました』  残り時間をカウントしているのはわかったが、いったい何の残り時間なのだろうかと思いながら、さらに音に耳を傾けるA子。 『ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピーン 只今、21年4ヶ月16日13時間43分ちょうどを切りました』  カウントは10秒間隔でなされていた。  もしかすると、媚薬を探すのには時間制限があるのかもしれないと思ったA子だが、探す先は限られているのだから、常識的に考えても21年もかかるはずがなかった。  A子は意味のない制約だと思って、まったく焦ることなく、最後の部屋に移動する意思を固めた。
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