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 三人が帰り、おばあちゃんと二人で片づけをする。食器を洗ったり、カウンター周りを掃除したり、使ったカラオケ器具を消毒したり。やることはそれなりにあるけど、覚えてしまえば難なくこなせてしまう。 「美佳子、昨日なつ子から電話があったよ」 「……お母さん、何て?」 「連絡してほしいって」    滅多に連絡なんかしてこないくせに。私に直接メールや電話をしても無視されるって分かってるから、おばあちゃんを通してきたんだろう。こういうときは、きっと何かある。 「……わかった。それよりおばあちゃん、掃除終わったよ」 「ありがと。じゃあ、ちょっと買い物頼まれてくれるかい」 「はーい」    おばあちゃんに渡されたメモには、野菜や肉や牛乳などがびっしりと書かれていた。お母さんのことはとりあえず後回し。今はとりあえずこの大量の食料品を買い込むことに集中しよう。  お風呂を済ませ、炭酸ジュースを片手に部屋に戻る。寝る前にジュース飲むのはあまり体には良くないかもしれないけど、これからやることを考えるとカロリーを摂取しておきたい。  スマートフォンのアドレス帳を開き、画面をスクロールさせ、登録名の「お母さん」を選ぶ。メールか電話、どちらにするか少しだけ迷ったが、会話のラリーを長引かせないことを優先し、発信ボタンを押した。最悪電話に出ないかもしれないと思ったが、杞憂に終わった。 『もしもし』    ワンコールでお母さんが出た。 「もしもし。何か用?」    普通の人間は自分から電話をしておいてこんなこと言わないだろう。でも、これが今の私にはぴったりだから仕方ない。 『なによ、素っ気ないのね。元気だった? くらい聞けないの』 「別にそういうのはいいでしょ」 『久しぶりの親子の会話じゃない。学校はちゃんと行ってるの?』 「行ってる」 『母さんのお店手伝ってるんだって? お客に無理やりお酒飲まされたりしてないでしょうね』 「お店ではお酒出してないし。それに、そんな失礼なお客さんいないから。っていうか別に世間話したいわけじゃないんだけど。おばあちゃん使ってまで私に電話させるほどの用件ってなに?」 『あ、そうそう! お母さんね、あなたに会わせたい人がいるのよ』    私は心の中で盛大に舌打ちをした。 「別に私には関係ないから」 『関係ないことないのよ。近い将来あなたのお父さんになる人かもしれないんだから』 「いい加減にして。そうやって男の人連れてくるの何人目?」 『六人目、かしら。でも、今度の人は絶対に大丈夫よ』 「何度も言ってるけど、私のお父さんは死んだお父さん以外いないの」 『じゃあ美佳子は、お母さんが誰と結婚してもいいっていうの?』 「勝手にすれば。でも絶対に私を巻き込まないで」    私は通話を切り、ベッドにスマートフォンを投げつけた。  お父さんが七年前に事故で亡くなって以来、お母さんは次々と男の人と付き合うようになった。女手一つで子どもを育てるのは大変だし、なにより寂しかったんだろう。それは私にも理解できる。  でも、連れてくる人は、揃いも揃ってろくでもない人ばかり。無職なんか当たり前、中には既婚であることを隠している奴もいた。    亡くなったお父さんはとても優しい人だった。どれだけ仕事が忙しくても、家族と一緒に過ごす時間を大切にしてくれた。動物園、遊園地、ピクニック、色んなところに連れて行ってくれた。運動が苦手なのに、私のために運動会の保護者対抗リレーに出てくれたりもした。思い出せばきりがないくらい、お父さんとの思い出がたくさんある。それはきっとお母さんにも。  だからこそ、不思議だった。どうして次のお父さんの探そうとするのか。代わりなんていないのに。    何人目かの「次のお父さん候補」に会わされたとき、私は「私のお父さんは死んだお父さんだけ」と伝えた。するとお母さんは「死んだ人のこといつまで覚えているつもり?」と呆れた顔をした。あのときの顔を、私は一生忘れないだろう。  それ以来、私はおばあちゃんの家にお世話になっている。たぶん、この先もお母さんと一緒に暮らすことはない。暮らすつもりもない。
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