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赤いまばたきをしている踏切の警報を見上げながら、私は踏みとどまる。
またあの栗色の睫毛が見たいから。
たぶん人生でいちばん素敵な七分間を、もう一度だけ感じたいから。
だから、赤いまばたきを見上げて唇を噛む。
治りかけていた唇はたやすく裂けて、大嫌いな血の味が舌を汚す。
どうして私はこんなに汚いの。
赤いまばたきが終わって、毒々しい遮断棹が青空に屹立する。垂れベルトが遮断棹に絡まって鳥肌が立った。
重い足を引きずって踏切を渡る。
また朝を生き延びてしまった。
あいつの生暖かい手の感触が首筋を這い回る。
唇を噛む力が増した。
ぶちりと音を立てて唇を噛み切る。
その痛みが私を安らかにさせる。
痛みで心に蓋をして、私は私を殺して新しい一日に死んで踏み出す。
背後でまた踏切が泣き出した。
早く明日になれ。
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