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うつむきながら泣いていた。
警告音は近づいてくる。
もう目をあげることは出来なかった。
昨日あいつに汚された左手首の内側には血が滲んだ真新しい絆創膏がベタベタと貼られていた。
パキパキと音を立てて刃を吐き出すカッターナイフの冷たさが蘇る。
警告音は近づいてくる。
涙で滲んだ目を閉じて、彼女の栗色の睫毛を思い出す。
触れられたらいいのに。
見つめられたらいいのに。
して欲しいことも望むような言葉も何もない。
ただ一緒に今日から逃げたかった。
同じ世界に行きたかった。
これから連れて行かれる現実から引き離して欲しかった。それなのに、右耳に突き刺さる赤いまばたきの警告音。
行きたくない。
行きたくない。
いきたくない。
いきたくない。
そのとき警告音が消えた。
ふっと隣にぬくもりがあった。
暖かい翼に触れられたよう。
右耳に吐息が吹きかけられた。
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