甘えたい夜もある

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◆◇◆  寝室の大きなベッドがギシリと音を立てる。月明かりと波音のする中、互いにローブも脱いで抱き合いながらキスをしている。  クラウルは約束通りとても優しく触れる。丁寧にくすぐるように絡まり、ソフトなのに的確にゼロスの気持ちのいい場所を擽る舌。強くはないのにしっかりと回った腰の手が引き寄せてきて、触れた肌の熱さを感じた。  そんなキスを繰り返しながら丁寧にベッドに押し倒されたゼロスの上に、随分と艶っぽい表情のクラウルが陣取る。嬉しそうに微笑みながら、酷く満足そうにして。  言葉はなくても伝わるものがある。それは触れる手の優しさや、見つめる瞳の優しさで分かる。首筋に、鎖骨に、彼の唇が触れて滑っていく。いつもに比べて些細な刺激、けれどムズムズと心地よくて、くすぐったくて笑ってしまった。 「くすぐったい」 「分かるだろ?」  分かっている。このムズムズと肌の奥の方で感じる感覚が快楽を引き寄せる。目の前にいる人が教えてくれた。  丁寧に包むように揉まれる胸の弾力に、クラウルはふと手を止める。その後はふにふにと気持ち良さそうに揉み続けている。 「え? なに」 「胸筋がついたなと思ってな。手に柔らかいのにしっかりとした弾力もある」 「今更?」 「こう、ゆっくりと確かめるように触らないと見落とすな」  そういえばこの人、普段は乳を揉むというよりは乳首攻めだったか……。 「丁寧にして、いい事があるものだろ?」 「まったくだ」  笑った人はその間も胸を揉んでいる。程よい力で下から持ち上げるようにして揉まれるのは気持ちよさよりも羞恥心を煽る。ゼロスはとくに筋肉が大きくなりやすい。ドゥーやグリフィスのような硬く強い筋肉にはならないのだが、ランバートやレイバンのように見た目に薄い筋肉でもない。程よく肥大し、力を込めれば硬いがそうしなければ適度に柔らかい。 「まだ揉むのか?」 「癖になる。手に馴染むというか」 「そんなにおっぱいフェチだったか?」 「ゼロスだから、だろうな」  甘い甘い笑みでそんな事を言うのは、どうなのだろう。まぁ、幸せそうだからいいか。  手は徐々に乳首の方へと迫ってくる。指先が薄く周囲を撫でるだけで確かな気持ちよさがある。この辺はこの人の恐ろしい技量だ。 「ぅ……んぅ……」 「声がいつもより甘いな」 「あぁ……はぁ……」  それは理性が残っているからだ。そして、突き抜けるような激しい快楽ではないから。心地よく抱かれているのだと思う。ゆっくりと高められて、全部をちゃんと理解している。  クラウルの指先が硬くなり始めた乳首を押し込み、捏ねる。これに、ゾクゾクと腰骨に痺れが走った。 「んぅ!」  今日初めての明確な快楽はよく響く。思わずギュッとシーツを握ってしまう。その手の甲に、クラウルはキスをした。 「背中に回せ、ゼロス」 「背中、ボロボロになるぞ」 「お前が付ける跡なら心地よい」  そんな風に嬉しそうに言われるのだ、たまらない。言われるままにクラウルの背に手を回したのを確認して、クラウルはなおもゆっくり丁寧に乳首を責め続けた。  硬くなった部分を摘まんでクリクリと転がしたり、優しく撫でたり。更には口でしながら胸全体を持ち上げて触るのだ。いつも感じる強い快楽と、揉まれる弱い快楽が合わさっていく。ずっと息が上がって、弱く甘く喘いでいる。広がる快楽はトロトロと全身を炙っている。 「クラウル……」 「どうした?」 「俺も、したい」  伝えると、彼の動きが止まった。唇も手も止まり、ゆっくりと起き上がるクラウルは全部を受け入れる顔をしている。そして手を差し伸べてきた。 「お前からされるのは好きだ」  ゼロスのすることなら全てを受け入れる。この人のスタンスは変わらない。上下すらも拘りがない。その日の気分、その時の思いで自由に立ち位置も変えていく。全て、この人の度量の大きさだ。  触れるクラウルの体は見事と言える。暑苦しい印象はないのにみっちりと詰まった筋肉は硬くて、まるで彫刻のようですらある。筋肉のラインが分かる。特に腹筋は六つに割れてその溝も深く、脇のほうまできっちりと鍛えられている事が分かる。腕、太股、全部がそんな様子だ。  触れた肌はしっとりと汗をかいている。その胸に、ゼロスは触れて唇を寄せた。 「ん……」  低く甘い声に心臓が煩くなる。この人の喘ぎ声はとにかく腰にくる。男らしい低さの中に甘さと色香があるからだ。  それに、感度もいい。指と舌で高めていくと硬く尖り主張を強めていく。綺麗な色のそれが少し大きくなるのは淫靡だ。  こうして触れるのは久しぶりな気がする。普段は自分が受けに回ったほうがしっくりとくるからそう望んでいるし、クラウルから申し出があるわけではない。思えば最近は特にゼロスの思う所を察してくれている気がする。  彫りの深い腹筋にもキスをしながらゆっくりと下がり、下肢へとずれてじっくりと、熱く大きな昂ぶりを口腔へと収めていく。石鹸と、汗と、雄の匂いと味。これに抵抗がなくなって久しい。勿論この人限定だが。 「ふっ……ぅ」  飲み込んだ瞬間、ブルッと身震いを感じた。上目遣いに見上げた彼は色っぽい顔をする。上気した肌も、濡れた瞳も好きだ。  そう、好きなんだ。この人がこの人であるだけで、こんなに。  ゆっくりと飲み込み、上下させながら唾液を絡めて飲み込んでいく。カリの部分は弱いのを知っている。丁寧に玉も揉んで、激しくはせず一つずつしっかりとしていけば口の中で大きく育っていく。もう、口が痛くなりそうだ。  ふと頭を撫でられて顔を上げた。色に濡れた表情のまま、クラウルは笑っていた。 「久々に、抱きたくなったのか?」 「いや、そういうつもりはない。ただ、俺も積極的になっていいと思ったんだ。アンタに求められて応じるんじゃなく、俺も求めていきたいと。夫婦になったんだ、そういうものだろ?」  無理に変える必要はない。それはランバートを見て思った。結婚しても彼は特に変化はないと言っていたし、見ていても思う。だが、心境は少し変わったという。より、対等へ。  ゼロスは主に自分の行動や考えに思う所があったのだ。遠慮ではないが、恥ずかしいという思いから主張をしないという選択だった。自分から求めたのではないという逃げ。結局受け入れるし嫌ではないのだから求めたの同じなのに、言葉は全部クラウルに言わせていた。  変えるなら未だ。神父も言っていた、「気持ちの有り様で幸せは沢山見つけられる」と。ならば、ここから変えていこう。もう恥ずかしくはないはずだ。堂々としていいはずだ。この人は、伴侶なのだから。  クラウルはどこか驚いている。それはそうだ、こと夜に関してはこうした言葉を尽くさなかったのだ。 「アンタと、もっと近くにいたい。求められる事も、求める事もしたい。嫌だろうか?」 「まさか! いや、嬉しいくらいだ……。まずいな、欲望に勝てなくなる」 「断る時ははっきりと断る」 「それはいつも通りだろ?」  そう、断る時はキッパリと断ってきた。そこのバランスが圧倒的に悪かったな。  わしわしと大きな手がゼロスの頭を撫でる。そしてふわりとクラウルは笑い、トンと後ろに押し倒された。 「では、求めさせてくれ。これ以上お前に口でされたら俺が先にイッてしまうからな」 「嫌なのか?」 「お前の仲で果てたい。一滴残らず」  死亡フラグに等しい宣言だが、嬉しそうに目尻を下げて言う人に否とは言えない。何より、嫌だなんて思っていない。むしろ望んでいる。それを証拠に、腹の奥が僅かにじわりと痺れた気がした。 「優しくする。だからどうか最後まで、ちゃんと俺を感じていてくれ」 「違えるなよ」 「分かっている」  額にキスをしたクラウルの嬉しそうな顔。これだけでこの後どうなろうと許せる気がするのだから大概だ。  ジュルジュルと音をさせながら昂ぶりを啜られ、舌が舐め回していく。腰が跳ねるが足の付け根を片手で抑えられているからそれもできない。逃がせない快楽に声を上げるゼロスの思考は少しずつ霞んでしまう。  前を啜りながら指は後ろを解している。長い指が二本、狭い肉襞を掻き分けながら中で開いていく。その指が前立腺を押し上げるのが気持ち良くて、ゼロスはとうとうクラウルの口の中に出してしまった。 「我慢させていた分、濃いな」 「あっ、あっ……んっ」  解放されてもなお、昂ぶりは硬くなったまま萎えていない。指は二本から三本に増えた。 「悪い、ゼロス……俺も我慢がきかなそうだ」 「わか……てる!」  知っている、ずっと我慢していただろ。旅行の間、触れたいのに途中でやめていた。止められる間に手を引いていた。あれはとても切なかった。  指が抜けて、熱い肉杭があてられる。そしてとてもゆっくりと、ゼロスの中に入ってきた。 「んぅぅぅぅ!」  痛みなんてものはない。ここはもうクラウルの形を覚えただろうし、今日はとても丁寧に慣して香油も沢山つかっている。いつも以上にスムーズだ。  にもかかわらずとてもゆっくりとした挿入が逆に焦れったくて、肉壁をジワジワ焼きながら入ってくるのが感じられてゾクゾクする。背中が痺れてそれだけでイッてしまいそうになる。 「熱くて……絡みついてくる」  少し辛そうに眉根を寄せる人が呻く。ゆっくり擦りつけるようにして抽送しながら奥へ奥へと入ってくる楔がやがて、一番奥を突く。瞬間、ゼロスは中でイッたのが分かった。自分ではどうにもならない奥底から湧き上がる快楽と衝動に頭の中が一瞬真っ白になり、声を上げてしがみついた。入口から中までぴったりとクラウルを締め上げているのも感じる。それに、クラウルは辛そうに耐えていた。 「平気か?」 「あっ、んっ……大、丈夫……っ」 「少しこのままでいる。だから、最後まで俺を感じていてくれ」  汗ではりついた髪を撫でられ、切なげに見られてお願いをされて。今日はなんて甘い日なのだろうか。 「俺も、最後までクラウルを感じていたい」  今ならちゃんと分かる。臍の辺りまでこの人がいる。動きたいのを我慢して。 「動いてくれ、アンタも辛いだろ?」 「だが」 「遠慮はしなくていい。普段よりずっと丁寧で優しいだろ?」 「そうして欲しいんだろ?」 「でも、我慢はして欲しくないんだ。幸い俺は頑丈だから、壊れたりしない。動いてもいいから」  この申し出に、クラウルは嬉しそうに笑った。  いつもよりもずっとゆっくり、でもその分たっぷりと時間をかけて攻め上げられるのは案外辛いと知った。ずっと腹の中が気持ち良くて、ずっとイッている。だが動きは緩やかで性急ではないから気をやるほどの衝動はない。  喘ぎっぱなしで声が掠れる。薄く霞がかった思考はそれでも消えたりはしない。求めてキスをして、自ら望んで股を開いて受け入れた。そうすると少しずつクラウルも奥を突く力を強めていってくれる。ここが一番気持ちいいことを知っている。 「くっ、これは俺ももたない……」 「あ、あっ、気持ちいい……クラウル、またイクっ!」 「あぁ、沢山イケ。俺ももう……っ」  深く割られ、打ち付けるように腰を使われて目の前がチカチカと点滅した。普段のとは深さが違う。まさに堕とされるような快楽に嬌声が上がった。深い所から痙攣して、それが全部に広がって分けが分からない。中のクラウルを必死に抱きしめて吸い上げている感覚すらある。  その中でクラウルも果てたのだろう。中でビクビク震え、押し込むように腰を使ってより深くへと種を放つのを感じる。  この時の顔が好きだ。独占欲も支配欲も見える色気のある男の顔。飢える黒い瞳にはゼロスだけが映っている。朧気に、だが理性は完全に切れてはいない。この目の中にいるのは自分なのだと思うと、たまらなく満足だ。  手を伸ばし、両手で包んでキスをする。自分だけを見ていて欲しいという欲望を込めて。 「まだ、欲しい」  切れる息のまま訴えたゼロスの膝が再び深く持ち上げられ、萎えていない剛直が緩んだ最奥を強く叩く。ビリビリ痺れて、たっぷりと先走りが溢れた。でもそこにもう白いものは混ざっていない。 「俺も欲しい」  唸るように言われて、笑って頷く。今日はなにも考えず、ただ己の思うままに肌を重ねていたいのだ。深く眠りに沈むその瞬間まで、この人だけで一杯にしたいのだ。  今日は、結婚初夜なのだから。
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