残火

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◆◇◆  翌朝、気づくとベッドで寝ていた。けれど背中にはクラウルが張り付いていて、腹にはしっかりと手が回っていた。こういう所が可愛いと思えてしまうのはもう重症だが、これでいいのだ。もう、伴侶なのだから。  それから程なくして二人で起きて荷物を纏め、中央コテージで朝食を取っていると支配人が来て、名残惜しそうな顔をした。 「またいつでもいらしてくださいね」 「あぁ、必ず。とても充実した休みを過ごす事ができた。有り難う」 「とてもご親切にしていただきまして、有り難うございます。また来たいです」 「えぇ、お待ちしておりますね」  にっこりと微笑んだ支配人と握手をして、またくる事を誓って、ゼロスとクラウルは帰路についた。  久々に馬に乗って向かったのは、予定していた町だった。王都へは残すところ半日という距離だが、町についた時には空が茜色になりつつあった。 「予定通りついたな」 「あぁ」  無理をすれば帰れるが、今日はここで一泊していく。明日の昼少し前に王都へと到着予定だ。  だが、その町の入口に知っている姿を見つけたゼロスは足を止め、酷い胸騒ぎを覚えた。 「クラウル様、ゼロス!」 「ランバート」  二人で顔を見合わせる。クラウルは既に仕事の顔をしている。それを見るのがどこか寂しかった。 「どうした、ランバート」 「ここではちょっと。とりあえず宿へ」  制服のまま馬を傍らにするランバートに促されるまま、二人は宿泊予定だった宿へと向かった。  宿に入ってすぐに部屋に。きっちりと窓も扉も閉めてから、ランバートはようやく話し出した。 「実は、不穏な動きがあるとかで」 「不穏な動き?」  視線が険しくなり、眉間に皺が寄る。鋭く緊張する空気はしばらく感じていなかったものだ。 「具体的には」 「……ゼロス、これはまだ俺で止まっている話なんだ。騒ぎが大きくなるとまずい」 「分かっている」  本当に何があったのか、不安が募る。  ランバートは一度息を吐き出してから、改めて言葉を発した。 「陛下への不穏な噂があり、暗府が動いています。実害があったわけではありませんが、今はまだ王子殿下もお小さいので」 「そうか……」  クラウルは何かを悩んでいるようだった。多分、旅の終わりを考えている。  何が事が起こったわけではないが、事が起こってからでは遅いのも確か。それを未然に防ぐのがクラウル達暗府の仕事だ。  ゼロスもこのまま、側にいて欲しいとは思う。別に何処に行くわけでもなかったが、この人にもう少し穏やかに過ごしてもらいたかった。  だが、我が儘を言うわけにはいかない。上官としてかっこいいこの人を最初に好きになった。皆が憧れる暗府団長の背中を一番に押してやるのが、ゼロスの務めではないのか。 「クラウル、戻ってくれ」 「え?」 「何かがあってからでは遅いだろ」 「だが……」  申し訳ない顔をする。ランバートも同じようなものだ。  寂しのは、確かだ。けれど大丈夫、繋がっている。 「俺では二人に馬で追いつけないだろうし、流石に疲れた。ここで予定通り一泊して、明日戻る。心配しないでくれ」  伝えると、クラウルはやや迷ってから徐に振り替えし、ギュッとゼロスを抱きしめる。人前だった。けれどもう、あまり気にはならなかった。ゼロスもクラウルの背中に素直に手を回して抱きしめた。 「明日の昼までに終わらせる。帰ってきたら、残りの休みを一緒に過ごしてくれるか?」 「あぁ、分かった。のんびりと帰るから、しっかり」 「あぁ」  互いの背中を一つトンと叩いて健闘を祈り、離れた。 「悪いな、ゼロス」 「ランバートも、無理するなよ」 「あぁ」  空は茜から濃紺に変わろうとしている。そんな中をクラウルとランバートは王都へ向けて走っていく。やっぱり、クラウルはゼロスに合わせて馬を走らせていた。去って行く彼等はとても早かった。  一人残されたゼロスはグッと腹に力を入れて背を向け、宿に戻って早々に眠りについた。  一人のベッドは、この日なかなか温まらない気がした。
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