217人が本棚に入れています
本棚に追加
◆◇◆
翌日、二人で宝飾店へと向かった。慣れなくて足がすくむ思いだ。
そうして結婚指輪を二人で見て、どうにも自分がつけるイメージが浮かばずに困った。それというのも女性物が多くて、キラキラしすぎているのだ。
だが、店員がこっそりと誘導してくれた先のものは落ち着いた雰囲気で一気にイメージもついた。店員曰く「最近は騎士団の方も多く訪れておりますので」との事だった。
「どれがいいだろうか」
「シンプルで邪魔にならないのがいい。石とかもあまり興味はないし」
「寂しい事を言うんだな」
「宝石なんて分からないからな」
しょんぼりした顔で言われてしまったが、これが本音だったりする。興味のない宝石の分高くなるなら、別に拘るつもりはない。
「オーダーするか?」
「そこまで拘るのか?」
「それでもいいが」
「俺は拘りないよ」
「贈りがいがない」
「女性じゃないんだから」
妙な所でがっかりされた。
それに、指輪以上に大事なものはもうずっと身につけている。右耳についているカフスが何よりの宝だ。
勿論、婚約にともらったシンプルな指輪もしている。虫除けらしいが、年末パーティー以降そんな相手は現れていない。
そうしてショーケースの中を覗いていると、ふと目に止まったものがあった。
シンプルなシルバーの指輪だが、やや太め。縁はつるんと光沢があるが、中はマットで光沢を抑えている。そのマットな部分の真ん中に二本、光沢のあるラインが入っている。
「これか?」
「あっ」
「すみません、此方を見せてもらえますか?」
クラウルが気づいて直ぐに店員に声をかけてくれる。ケースから取り出されたそれは手に取ると意外と軽く、太めかと思ったがそうでもない。
「こちら、石をはめ込む事もできます」
「石はあまり」
でも、手に馴染みがいい気がする。
「中に彫り込みはできるのか?」
「勿論でございます」
「それならいいか。ゼロス、どうする?」
「うん、これがいい」
これを付けたクラウルはかっこいい気がする。純粋にそう思ってしまった。
「では、指のサイズを測りますので。在庫があれば数日でお届けできると思いますが」
そう言いながら指のサイズを測った店員の表情が見る間に申し訳なさそうになる。まぁ、当然とも言える。二人とも剣を握るのだ、当然指はそれなりに太い。
「申し訳ありません、こちらのサイズは在庫がございませんので、お作りすることになります」
「構わない。どのくらいでできる?」
「一ヶ月と少しという感じです」
「では、それで頼む」
あっという間に話がついて、代金は前金だけ。ゼロスも出すと言ったが押し切られた。
「そのかわり、ランチはゼロスにお願いする」
「これと同じ金額のランチって、どんな豪華なの頼むんだ?」
「お前の手料理が食べてみたい」
「……おいおいな」
甘ったるい笑みで言われてしまうと無理とは言えない。これは今度、ランバートやコンラッドに習わなければならないだろう。なにせ指輪と同じ価値の食事だ。腕が鳴るというものだろう?
最初のコメントを投稿しよう!