二人だけの結婚式

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二人だけの結婚式

 翌日朝、大きなベッドで目が覚めた。隣ではまだ目を閉じたままのクラウルがいる。上半身は裸のまま、下はちゃんと履いている。  昨日はしなかった。まずはしっかりと体を休めようと互いに納得はしたが、こんなに近くにいては多少は触れたい。キスをして、切ない気持ちもあった。触れて欲しいような気もしたが、それをゼロスからは言い出さなかった。  『明日は、沢山抱かせてくれ』  宣言のように言われ、真剣に見つめられて心臓が煩くなった。勿論ゼロスもそのつもりでいる。  それにしても、こんなにマジマジと黙ってクラウルの顔を見られるのは珍しい。この人は大抵ゼロスよりも早く目を覚ますか、ゼロスが起きた事に気づいて起きてしまう。敏感なんだ。  睫毛が長い。眉の形も綺麗だ。鼻筋が通っていて、額も適度な広さで滑らかだ。身長に対して頭が小さくて、唇は少し大きいのか?  こんな人が、今日旦那になる。まだ婚姻届は出していないけれど、戻ったら出す予定になっている。未だに信じられない思いがどこかにあるなんて言えば、この人は哀しい顔をするだろうか。 「……ふふっ」 「!」 「そんなに見られると流石に恥ずかしいんだが?」  薄らと開いた黒い目が楽しげにしている。それに、ゼロスは大慌てで背中を向けた。  起きていたのに気づかなかったなんて、間抜けにも程がある。観察しているようで観察されていたのだろうか。間抜け面だったに違いない。 「ゼロス」  背中から回った腕が抱きしめてくる。後ろに感じる熱に安心するようになった。 「怒らないでくれ」 「意地悪だ」 「あまりに真剣に見つめるものだから」 「……気づかなかったなんて、恥ずかしい」 「気配を消すプロだぞ、俺は」 「こんな所で商売道具を持ち出さないでくれ」 「お前が可愛かったから、もう少しあのままでいたかったんだ」  項に触れる唇がくすぐったい。そのまま背骨を伝うように少しずつキスは降りていく。これだけで、体は何かを期待して反応してしまう。思わせぶりな刺激が響いてくる。  思えばこんなに長く一緒にいるのに、まだ一度も体を重ねていない。でも妙に相手を意識して、期待しているのは確かなんだ。 「……今夜まで、お預けだ」 「分かってる」 「明日はでかけずに過ごそう」  それは、抱き潰すということだろうか。  いや、それでいい。ゼロスも今日に限っては止まれる気がしない。クラウル不足なんだ、満足いくまで確かめたい。 「さて、朝食を軽く食べたら町を見て回るか」 「そうだな」  起き出して、ゼロスもそれに従う。今日は少しちゃんとした格好をするつもりで用意した。流石に式を挙げるのにハーフパンツにシャツ一枚でサンダルというのは格好がつかない。 「夕食はどうする? 町でいいところを見繕うか?」 「それなんだけれど」 「ん?」 「俺に、作らせてくれないか? あまり凝ったものは作れないけれど」  これには、勇気が必要だった。  クラウルから「手料理が食べたい」と言われて、ゼロスは練習していた。平日の遅い時間、ランバートとコンラッドに習って。試食はレイバンやハリー、ドゥーガルド達がしてくれた。一応彼等が「美味い」と言うものは作れるようになった。  クラウルは目を丸くしている。結婚式当日のディナーだ、やっぱり気張った店がいいだろうか。取り下げようと顔を上げるが、その前に強く抱きしめられた。 「有り難う」 「……あまり、期待しないでくれ」 「間違いなく完食する」 「無理しなくていいからさ」 「嬉しいんだ、単純に」  もう、この人どうしたらいい。少し盲目しぎやしないか?  でも……有り難う。少しだけ気が楽になった。 「式を挙げて、買い物をして帰ろう。お祝いのワインと、ケーキも買おう」 「うん」  自信なんてない。でも笑えるのは、この人なら大丈夫だろうという安心感なのかもしれない。
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