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思いがけない休み
ランバート達の結婚式も終わり、落ち着いた六月末。いつものようにクラウルの部屋で帰りを待っていると、なんとも微妙な顔をしたクラウルが帰ってきた。
「おかえり、どうした?」
「あぁ、ただいま。実はカーライルから呼び出されてな」
「陛下から?」
表情からはあまりいい事ではなさそうだ。心配になり立ち上がり、神妙な表情で近づいていく。その頭を大きな手が撫でる。これは甘やかしというよりは、この人自身が落ち着きたいが為だろう。
「実は、働き過ぎだと怒られたんだ」
「はぁ?」
が、思ったような深刻な話ではない。むしろ拍子抜けだ。気の抜けた声で答えたゼロスに、クラウルは困ったように笑った。
「何度かシウスにも言われていたんだが、俺が抜けると困る事もあると言って安息日以外は休んでいなかったんだ。だがとうとう有給が溜まりに溜まってしまってな。いい加減休めと怒られた」
「まぁ、確かにクラウルはあまり有給を使っていない気がしたけれど」
そういうゼロスも特別な事がなければ有給は使っていない。これと言って必要とも思わなかったからだが。
「そこで急遽だが、一ヶ月後に強制的に休む事になった。七日程度か」
「結構長いな」
「ゼロス、お前は有給は溜まっているか?」
「ん?」
溜まっている……と、思う。何せ使った記憶があまりない。
「せっかくこんなに長く休みを貰えるんだ、少し遠くまで旅行でも行かないか?」
「旅行!」
そういえば、そういう使い方もあった。いや、相手のクラウルの日程が合わないから考えもしていなかったんだ。仲間達というのも考えられたが、それぞれにやりたい事はある。旅行なんて言葉、まったく出てこなかった。
「おそらく七月の末か八月の頭辺りになる」
「それなら海か?」
帝国は海沿いの領地はリゾート開発されている事も多い。綺麗な砂浜に青い海というのが、夏の定番だったりする。
だが、クラウルと海…………似合うだろうか。
「海か。悪くないな」
「それじゃあ、他の人にも聞いてみる」
ゼロス自身は海水浴など記憶にないが、仲間の中にはそういう経験のある奴はいるだろう。そう思い、ゼロスはリサーチをすると約束した。
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