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学生生活
バスの窓から見える木々は葉を落とし、紅に染まった秋を忘れてしまったようだった。ヒロは名古屋へと向かう高速バスの中で、今までの短い人生について回想にふけっていた。
高校まではまさに、スポーツ一筋の人生だった。小学校3年生で地域のクラブチームでバドミントンを始め、最初は羽を打つだけで楽しかったのだが、試合で勝つ喜びを経験し、次第に勝負の世界へとのめり込んでいった。もともと穏やかな性格のせいか、「あとちょっと」で勝ちを逃すことが多く、そんな自分が嫌でひたすら練習に打ち込んだ。
その甲斐あってか、中学生最後の県大会でシングルス優勝を果たし、高校は強豪校へと進学を決めた。高校時代の練習はまさに「地獄」という言葉が似合うほど厳しいものだった。
毎朝7時から朝練で山へランニングに行き、授業のあとの部活動でも体力の限界まで追い込むスタイルだった。練習では決して手を抜かないタイプで、強い仲間たちとの切磋琢磨もありメキメキと実力を蓄えていった。
いつしか将来の夢は「実業団選手」になり、背番号を背負ってプレーしたいと思うようになった。しかし、現実はそう甘くはなかった。県大会では幾度もの優勝を重ね、全国大会に出場したものの、一度も結果を残すことができなかった。
3年生最後の大会が終わり、大学進学について考え出したとき、「バドミントンでこれ以上上を目指すのは難しい。」と、大きな実感を突きつけられて悲しくなった。バドミントンでの進学、学問優先での進学を天秤にかけ考えた末、前から学びたかった自然環境系の学部に進学することにした。
大学での生活は今までの人生とはまったく別物だった。講義は好きな科目を選択でき、自然環境と人間との共生についてや、地域経済の発展についてなど、専門的な分野の研究ができた。そして、友達との遊びや、朝まで飲んだくれた日々は本当に新鮮で、まさに「人生の夏休みなんだなぁ」と幾度となく思った。
そんな日々はあっという間に過ぎ去り、大学3年生になったとき、一年後に控えた「就職」の2文字に大きなプレッシャーを感じた。今まで好きな人と好きな勉強をして、好きな所へ遊びに行き、好きなだけお酒を飲む生活ができなくなると思うと、急に胸を締め付けられる感覚に襲われた。
「もう学生ではいられないんだ」という実感が湧き、高校時代の終わりのように、再び悲しさに襲われた。
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