3人が本棚に入れています
本棚に追加
Good bye
朝起きると、サラはもう隣にはいなかった。
「いつの間に、どこへ行ってしまったんだろう…。」
ヒロはすぐに歩き始めた。
「サラさん、そんなに遠くには行ってないはずだ。」そもそもこの島はそんなに広くない。ヒロはもう一度サラに会って、昨晩のお礼を言いたかった。あと、
「現実世界に戻ったら頑張ります!」と力強く言いたかった。昨晩はサラの言葉に勇気づけられたにも関わらず、何も言えずに寝てしまった。その眠りは、今までのどの眠りよりも気持ちが良いものだった。
しかし、どれだけ歩き回ってもサラの姿は見当たらなかった。途方に暮れたヒロは、テトラポットに腰掛け、どこまでも続く水平線を眺めた。
「サラさん、どこに行っちゃったのかなあ…。さぁ、戻ったら頑張らなきゃー。」
ヒロの声は確かな響きとともに、波の音に包み込まれた。一日歩き続けで空腹状態だったヒロは、昨晩サラからもらったバターロールのことを思い出した。そのバターロールを一口食べると、バターの上品な味わいが腹の底まで染み渡った。三個あったバターロールを夢中でたいらげると、ヒロはそのまま横になり、夕方になるまで、青くどこまでも続く空を仰ぎ続けた。
夕方になると、昨日降り立った船着き場に、どこからともなくフェリーがやってきた。
「サラさんの言う通りだな。」
ヒロはそう呟き、フェリーに乗り込んだ。おそらく来たときと同じフェリーだろう。エンジン音や手すりの錆び方がそっくりだ。ここでふと、ヒロは乗組員が一人もいないことに気が付いた。どうやらこのフェリーは無人で動いているらしい。しかし、ヒロはそんなことではもう驚かなくなっていた。
「きっとサラさんが動かしているんだろう。」
そう思い込むことで、なぜか妙に納得できた。その後、ヒロは現実世界までのしばらくの船旅を、心行くまで満喫した。
最初のコメントを投稿しよう!