103人が本棚に入れています
本棚に追加
第10話・家政腐は見た
そうなのよ。チマタでハヤリの派遣ギリってやつにあっちゃってね、先月。
まあ、アタシ、ハヤリには敏感なほうだから……って、くだらない自虐いってる場合じゃないよね、まあね。
で、親戚のオバサマが「わたしのアトガマやってみる?」って紹介してくれたのが、ハウスキーパーだったのよ。
『片付けられないオンナ北関東代表』を自負するこのアタシによ?
は? オマエの片付けられない原因は、部屋中に散乱した同人誌とか、同人誌とか、同人誌とかのせいだろって? まあ、それは一理あるわね。
どっちにしても掃除は苦手だし、アタシ。絶対ムリって、辞退したんよ。
したら、オバサマいわく、
「いーの、いーの。たいして掃除なんかしなくても。キレイなお宅なのよ、これが。1階のお部屋とキッチンをチョコチョコッと掃除機かける程度で。2階はお坊ちゃまたちのお部屋だから立ち入り禁止だし。あとはソファーでテレビ見ながら留守番してりゃいいだけなんだから」ってガハガハ笑うのよ、これが。
あ、ちなみにオバサマは、持病のギックリ腰が慢性化したんでリタイアしたんだけどね。
週3日でいいっていうし。お給料も申し分ないしさぁ。
次のBL即売会の遠征費用だって、もうちょい貯めておきたいしね。思いきって引き受けてみたんよ。
そしたら、これがね、もう。
いやぁー、開けてびっくりサプライズ・玉手箱よ! ……うっせぇわ、死語とか言うなし。
とにかくもう、おそるおそる玄関のチャイムを鳴らしたら、超美人な奥サマが優しーく出迎えてくれて、広ーいリビングに案内してくれたと思ったら、かぐわしーい紅茶とケーキでウェルカムよ?
もう、感動しかない。一生ついてきますっ、奥さまっ、イヌと呼んでっ! ……って感じだったね。
でもね、まだまだ、本題はこっからなのよ。こっからがパラダイスの真髄なのよ。
その日、たまたま末っ子の男の子がバイトが休みで家にいたもんで、顔合わせをさせてくれたのよ。
それがもう、ね……
そんときのアタシ、再現していい?
――ちょっ、ちょっ……なにっ? やだ、このコ……激マブなんですけどぉーっ!? 超マブいんですけどぉーっ!? チョマブなんですけどぉーっ!!
って、こんな感じ。……いや、だから、死語はスルーしてよ。こちとらアラサーよ。
とにかくね。こう、お肌ピッチピチ。
美人のお母さまに良く似てるんだけど、もっとデッカいおメメして、目尻が切れ上がってるから、なんかこうニャンコみたいな。めっちゃ気が強そうでさぁ。
これはもう完全に「強気受」属性だなって。
いーや、あれは絶対、右側だね。
アンタも見たら分かるって。今度こっそり隠し撮りしてくるから、待ってて!
んでね、んでね。そのコ、真司君ってゆーんだけどぉ、
「へぇー。新しい家政婦さんて、こんな若いヒトなんだぁ」
って、とびっきりのスマイルでアタシを悩殺してくるわけよ。
さすがセレブのお坊ちゃまだけあってか、いきなり赤の他人に出会っても、ぜんっぜんモノオジしないのよ。
「モエコさんってゆーの? んじゃあ、これから、モエちゃんって呼んでいい?」
って、いきなり「ちゃん」づけだもーん。アタシ困っちゃってぇー。
いやいやいや、このくらいのマウントでドン引かれちゃったら、続きを話せないんですけどぉ。
聞きたいでしょ? うん、素直でよろしい。
でもって、この日は、ご挨拶でお邪魔しただけだったから、すぐにオイトマすることになったんだけど。
ちょうどアタシが玄関で靴履いて出て行こうとしたのと入れ違いに、しばらく海外に出かけてたっていう長男の敦司さんって方が、帰ってきたのよ。
で、またしてもサプライズ・玉手箱!
いや、もう、アタシ、リアルに心臓止まりそうだったから。
G大病院で研修医してる超エリートのサラブレッドだって、親戚のオバチャンから聞いてはいたけどさぁ。
こーんな超絶美形だとは、聞いてないよぉー! って感じだったわよ。
もうホント、ポカーンとしちゃって、ガチでメマイ起こしかけて、足元フラついちゃってさぁ。
そしたら。
「おっと……大丈夫?」
なんつって。低音のイケボで。敦司お兄さまが、アタシの肩をサッと支えて助けてくれたわけよ。
いや、ホントなんだってばぁ。
ぜーんぜん盛ってない! マジでリアルでガチな話なの!
「大丈夫です、ゴメンなさいっ!」(1オクターブ高く)
って言いながら、アタシ、しっかり至近距離でお兄さまのお顔を拝見させていただいたけどもさぁ。
間近で見上げると、もう圧倒的迫力よ。美しすぎるイケメンって凶器なんだって悟ったね、アタシは。
真司君もけっこう背が高いけど、敦司お兄さまは、もっと長身なのよね。
兄×弟の身長差、理想的すぎて……。
わかってるってば! いつか絶対にツーショット写真撮ってくるから、ヨダレたらして待ってなって。
で、アタシが急いで体勢を整えたら、
「よかった。気をつけて」
って、サッサと手を離した……ってより、突き放された……みたいな気がしないでもなかったんだけども。ま、まあ、それは気のせいだったかも。
ってゆーか、もうアタシのことなんか視界に入らないってイキオイで、
「ただいま、真司!」
って、……ハグをしたのよ、ハグを。
お兄さまが弟の肩に腕をまわして、こう、ギュギュギューって。
アタシの目の前でよ!?
なんならもう、こっちは、わざと見せつけられてる気分で……
も、盛ってない、盛ってない! ほんっとに、ぜんっぜん盛ってない! ガチでリアルなんだってば!
とにかくもう、決めたからアタシ。次の同人誌は、兄弟モノでいく!
そのためにも、今後、じっくり観察させてもらうわよ、あの兄弟を。フッフッフ……。
最初のコメントを投稿しよう!